映画『アラビアのロレンス』
砂漠の高温を焦がれているかのように、ロレンスがマッチの火を指でもみ消す。ここでのロレンスは、退屈な陸軍司令部での仕事を嫌い、形式にとらわれず、機知に富み、学力があり、そして野心もあるアウトサイダー。自ら進んでアラビア勤務を願い出て、望み通りアラビアへ赴任したロレンスは、砂漠の民と同じ強さで苛酷な自然と向き合う。アラビア赴任からアカバ攻略まで、前半のロレンスはとても魅力的な人物で、圧制に苦しむアラブ人達をトルコから解放、そしてイギリスの支配下ではなく、アラブ民族を統一、独立を掲げるヒーロー、でありながら身近に感じられる存在として描かれている。
広大なネフ-ド砂漠をアカバを目指して進撃していたロレンスの隊から、一人の兵士が遅れ、もうすぐ砂漠を渡りきるというときになってそのことに気付いたロレンスは、単独捜索に戻り、無事兵士をつれて戻る。この一件でロレンスはアラブの民から信頼を寄せられ、純白のアラビア服をプレゼントされる。それを身に纏ったロレンスは子供のように嬉しがり、小躍りし、服を風になびかせ、ひとり悦に入っている。それは、アラブ人になりきろうとしていたロレンスが、憧れの衣装を手に入れた時のナルシズムだが、私には微笑ましいシーンだった。
また、自分の隊の兵士をロレンスが処刑するシーンの後、その処刑を「楽しんでいた」と告白するシーンも戦時下の指揮官の苦悩をよく表している。ここでは、ロレンスの心に潜むダーク・サイドを少しだけ垣間見せるのだ。その他、各所で人なつこい笑顔で情け深く、力強い行動力をみせる。しかしアカバ攻略の後、ロレンスは少年二人を連れてシナイ半島横断の旅に出る。この長い旅でロレンスのヒロイズムは、徐々に砂漠の砂の中へ沈み、消えてゆくように思える。
Intermission後、再開された映画の後半は、なぜか見るものを落ち着かなくさせる。ロレンスの顔には、前半での人なつこい笑顔は見ることは出来ない。砂漠へ戻ることに恐怖を感じている様にも見える。さらにアメリカから来た新聞記者がロレンスを扱った記事で名を上げようと野心を見せつける。
しかし、ようやくロレンスは砂漠へ戻ることを決意し、さまざまな活躍でトルコ軍に打撃をあたえ続けた。ロレンス率いる遊撃隊はトルコ軍の補給列車を爆破、兵士ばかりか乗客を殺し、略奪を繰り返す。その略奪が終わるたびにアラブ人達は隊を離れて行った。アラブ人達にとっては独立の戦いよりは目先の戦利品のほうが大事なのであった。そしてアメリカの新聞記者の言われるまま、爆破した列車の屋根の上で得意げにポーズをとるロレンス。やがて、ロレンスはダマスカスへむけて進撃を開始する。ダマスカスを自らの、アラブの民のものとするために。
途中ロレンスは、トルコ軍が支配するデラアの町に偵察に入り、トルコ軍兵士に捕らえられる。軍の官舎に連れて行かれたロレンスは、そこで司令官に服を脱がされ裸の胸に触られる。ロレンスが激しい抵抗したため、司令官は諦めるが、兵士達に殴られ、むち打たれ、軍靴で蹴られる暴行を加えられる。傷だらけの身体で精神的にもボロボロになったロレンスは、兵士達の隙を見て町を逃れ出た。この事件でロレンスは復讐を誓い、さらに近付き難い性格となってしまう。
ダマスカスを目指すロレンスの隊は、虐殺された村(タファスの大虐殺)を発見、そこを襲い立ち去ったと思われるトルコ軍の敗残兵たちを見つける。ダマスカスへ急ぐか、彼等と戦うか、迷うロレンス。しかし、自らの攻撃衝動を押さえきれなくなったロレンスは、このトルコ敗残兵達を皆殺しにしてしまう。......戦闘が終わった。服は血にまみれ、血のしたたる刀を握り締める、ぼう然自失のままのロレンス.....。そこにはもう身近に感じられたロレンスの姿はなくなってしまった。前半の処刑のシーンとは異なり、苦悩はなく、ロレンスは自らのダーク・サイドに深く入り込んでしまったかのようだ。
ダマスカスに一番乗りし市内を制圧したロレンスの隊は、そこでアラブ民族政府の樹立を画策するが、私利私欲、勝手気ままなアラブ人達は、ロレンスのコントロールから離れてゆき、やがてロレンス自身もアラブ統一が儚い夢、幻だと知るのであった。それは、映画の冒頭、コントロールを失ってバイクから投げ出され、47歳の生涯を終えたロレンスの最後のシーンと重なる。
ダマスカスを後にしたロレンスの車をバイクが砂煙りを上げて追いこしてゆく......。
『LAWRENCE OF ARABIA』
STAFF
監督 : David Lean
製作 : Sam Spiegel
脚本 : Robert Bolt
撮影監督 : Fred A. Young
美術監督 : John Stoll
プロダクション・デザイン : John Box
音楽 : Maurice Jarre
演奏 : London Philharmonic Orchestra
原作 : "Seven Pillars of Wisdom"by T.E Lawrence
他
STAFF
監督 : David Lean
製作 : Sam Spiegel
脚本 : Robert Bolt
撮影監督 : Fred A. Young
美術監督 : John Stoll
プロダクション・デザイン : John Box
音楽 : Maurice Jarre
演奏 : London Philharmonic Orchestra
原作 : "Seven Pillars of Wisdom"by T.E Lawrence
他
CAST
Lawrence : Peter O'toole
Prince Feisal : Alec Guinness
Auda Abu Tayi : Anthony Quinn
Sherif Ali Ibn el Kharish : Omar Sharif
Colonel Brighton : Anthony Quayle
Jackson Bentley : Arthur Kennedy
他
イギリス映画/3時間46分(序曲、Intermission含む)
公開: 1962年
製作 : Horizon Pictures (G.B.)Ltd.,London,England
配給 : Columbia Pictures Corporation.
公開: 1962年
製作 : Horizon Pictures (G.B.)Ltd.,London,England
配給 : Columbia Pictures Corporation.