My Wandering MUSIC History Vol.84 1984『逆噴射家族フィルムサウンドダイジェスト』

1984年6月21日、キャニオンよりリリースのサウンドトラック・アルバム。

『爆裂都市』(1982年)公開後、石井聰亙はバチラス・アーミー・プロジェクトを率いて自ら音楽も担当した『アジアの逆襲』(1983年)を完成、普及し始めた家庭用ヴィデオに対応すべくヴィデオ・パッケージ作品としてリリースした。その後、長谷川和彦の掛け声により1982年に設立された映画企画・製作会社ディレクターズ・カンパニーに参加(他には高橋伴明、相米慎二、根岸吉太郎、井筒和幸、大森一樹ら石井を含め9人の監督が参加していた)、ディレクターズ・カンパニーでは石井が誘って小林よしのりと共に脚本作りを進めていた『逆噴射家族』の制作が決まる。

1980年代前半、話題に上がっていた“家庭内暴力”をギャグで描き、概ね子供から親へ向かう暴力として取り上げられることが多かったと思うが、むしろ石井と小林よしのりは“家庭間戦争”にしたいと考えた。主人公を息子から親父へと変更し、1982年2月に起きた日航機羽田空港沖墜落事故で流行語にもなった“逆噴射”という言葉をタイトルに、さらにこれも当時話題に上った“ビョーキ”というワードを作品に織り込みながら、主演の父親・小林勝国役に小林克也、妻・小林冴子役に倍賞美津子、息子・小林正樹役に有薗芳紀、娘・小林エリカ役に映画初出演で13歳だった工藤夕貴、祖父・小林寿国役に植木等という個性的なキャスティングによる5人の家族のマイホーム購入~家族間戦争~崩壊~再生までを描き、1984年6月23日に劇場公開された。『逆噴射家族』は公開されてすぐに観に行った覚えがある。たぶん池袋で観たと思うが映画館はどこだったかな…。

この『逆噴射家族フィルムサウンドダイジェスト』もすぐに購入していたKBちゃんに借りてカセットテープに録音して聴いていた。長らく再発されることはなかったが、2007年にリリースされた石井聰亙DVD-BOX2の特典として初めてCD化されている。
映画『逆噴射家族』の音楽は1984とクレジットされているが、映画のエンドロール、映画のパンフレット、オリジナル・アナログ盤、石井聰亙DVD-BOX2の解説書、復刻CD、どれにも演奏したメンバーの記載はまったくない。アナログ盤(及び復刻CD)に封入されていたリーフレットには、フィルムサウンドダイジェスト・レコード・スタッフとして、
Director:柏木省三
Play:1984
それに「艶姿ナミダ娘」と「馬賊の唄」を除き、
Music Written by 1984
とクレジットがあるのみ。
まぁ映画『爆裂都市』のサントラにも1984のメンバーの記載はなかったけどね…。
レコーディングはルースターズのレコーディングでもおなじみ、スターシップ・スタジオでミキサーは森山恭行によりおこなわれている。

この時期の新宿ロフトのスケジュールを見てみると1984は、ほぼ月いちでライヴをおこなっていたようだが、ライヴも見に行っていないし、何の根拠もないのだが個人的に推測すると『逆噴射家族』の音楽のレコーディングについては、ルースターズに加入して間もない柞山を除いて、下山淳がギターとベースを兼ね、ギターに花田、ドラムが灘友および打ち込み、キーボードは安藤広一、そして柏木省三が参加していると思うのだが…。雑誌Blue JagのNo.17 1984年10月25日号の1984を紹介した記事に鏑木朋音の参加が紹介されているから、キーボードに鏑木朋音もレコーディングに参加している可能性もある。

『逆噴射家族』の撮影は1984年1月21日~3月3日に行われており(ウィキペディアから)、6月23日に公開されている。ルースターズのスケジュールはベースの井上が脱退した1984年1月2日のライヴのあと3月中旬まで空いているが、その後“Searchin' for GOOD DREAMS”ツアーが4月14日~6月16日までびっしりスケジュールされていることから、ラッシュ映像を見ながら音楽をつけることを考えると3月上旬~4月初めくらいの間にレコーディングされたのではないだろうか。
劇中のセリフや効果音が音楽と共に収録されているアルバムだが、比べてみると実際の映画では違うシーンに使われていた曲もある。

スラップスティックなジャケットは映画の宣伝美術も兼ねていた湯村輝彦によるものだ。
石井聰亙監督の掛け声でアルバムは始まり、「オヤジの決意~Opening」と題された1曲目は、勝国のモノローグのバックにシンセによる低音の不気味な音楽が流れているが、映画ではこのモノローグのシーンに音楽はついてなく、2曲目の「引越初夜~Sweet Home Sweet」で冴子がマイホームに移り住んだ最初の夜の妻をコミカルに演じているシーンのあとに流れていた。それにこの2曲目の軽快な曲「Sweet Home Sweet」は映画では使われていないようだ。

「エリカの艶姿~艶姿ナミダ娘」は勝国の出勤・ラッシュアワーのシーン~祖父・寿国の登場するシーンで、フリフリの衣装を着たエリカがカラオケで小泉今日子の1983年のヒット曲「艶姿ナミダ娘」(詞・康珍化/曲・馬飼野康二)を歌っているシーンで使われた。もちろんキョンキョン・ヴァージョンのカラオケではなく、この映画用にアレンジしたバッキングトラックに工藤夕貴の歌唱である。

アルバムでは勝国と寿国の公園でのやり取りのバックに流れるファンキーなテイストの「親父の愛情~Love My Family」は、映画では新居からの初めての出勤シーンで流れていた。アンビエントな雰囲気の「正樹のテーマ~Biofeedback」は主に正樹が勉強している“ムー”な雰囲気の部屋のシーンで使われている。
このアルバムでは寿国が家を出て行こうとするシーンと被せて収録されているダークな曲「じじ捨山~Dark Side of Ground Papa」と、勝国が家族に毒を盛ろうとするシーンに被せて収録されている「毒盛家族会議~Midnight Dinner」は、映画ではバックに音楽を使用しておらず、他のどのシーンで使われているのか判別出来なかった。なお「Midnight Dinner」は1986年に1984がリリースするアルバム『Birth of Gel』に「Sorrow」として収録されている(再録または演奏を追加していると思われる)。 

「親父の逆噴射~Back Fire Papa」は勝国が穴掘りに着手するシーンやドリルを購入して穴を掘り続けるシーンで使用されていて、ギターが活躍するロッキンなナンバー。私が妄想するに最初のギターソロは花田、2番目のギターソロは下山じゃないかと思うのだが…。アナログ盤ではここまでがA面。

シンセポップといった感じの「親父のあせり~Hurry Up」は勝国が会社を早退、帰宅するシーン、 ドラムのフィルとギターが凶暴さを増す「家族穴掘症候群~Give Me Shelter」は穴の中の大混乱のシーンで使われていた。ついに始まった家族間戦争のシーンでは「親父の逆噴射~Back Fire Papa」が使われている。
仁義なき家族の争い…祖父寿国が孫のエリカを捕虜としたシーンでは「祖父の逆襲~馬賊の唄」がアルバムに収録されているが、フィードバック・ギターをバックに植木等が歌う“馬賊の唄(詞・宮島郁芳/曲・鳥取春陽)”は映画では使用されていなかった。

家族間戦争のシーンで流れるワイルドでプリミティヴな「家族乱舞-家屋崩壊~Dance Wildly」は、ベーシックなドラムのリズムトラックは1984がカセットでリリースした「Big Brother」を流用している気がする。崩壊した家族、そして新しい生活のシーンで流れるのは1984がカセットでリリースした「Walkin' In The Space」を「新しい生活~レクイエム(Requiem)ラストテーマ」と改題、 イントロにパーカッション的なサウンドを、曲の後半には映画には使われていない(もとの「Walkin' In The Space」にも無い)パートを追加している。

このサウンドトラック盤には収録されていないが映画の宣伝歌として、ひとし&カツヤ(植木等と小林克也)名義で「逆噴射・家族借景 c/w DO YOU REMEMBER」をシングル・リリースした。こちらは何のクレジットもないので演奏に1984が関わったか定かではないが、「逆噴射・家族借景」はサックス、女性コーラスをフューチャーした、作詞・売野雅勇/作編曲・芹澤廣明のハード・ドライヴィンなナンバー。売野のトリッピンな歌詞もいい。ほぼ植木等と小林克也のユニゾン歌唱だが、間に入る二人のソロ部分もいい味。

カップリングの副宣伝歌「DO YOU REMEMBER」は女性コーラス、ストリングスをフューチャーしたバラード・ナンバー。こちらも作詞・売野雅勇/作編曲・芹澤廣明。 渋い声を作って歌う小林克也とストレートな歌唱の植木等の対比がいい。お互いのソロ部分に掛ける“イェ~”も泣かせる。映画の中では「逆噴射・家族借景」がヴォーカルをエフェクト処理してオープニングのタイトル・シーンに使われている。

また、1984がカセット・テープでリリースした「Big Brother」(または後の「Ground Zero」)が冒頭の出演者やスタッフを写すタイトルバックに流れるが、ハイハットのカウントで始まり、ギターの入り方も違うインスト・ヴァージョンで使われている。これもサウンドトラック盤には収録されていない。

映画の冒頭、引っ越しの車内シーンでエリカと冴子がカーステレオのカラオケで歌っているのは中森明菜の「禁句」。このバックトラックもサウンドトラック盤に収録されていないが、オリジナルのテクノな明菜ヴァージョンのオケではなく、テイストの「Same Old Story」(というかDTBWB「港のヨーコヨコハマヨコスカ」)のようなリフを使ったヴァージョンだ。映画では冴子が老人会ホームパーティでストリップまがいのダンスを披露するシーンでも長めに使用されている。これも1984による演奏と思われるが…。

家族が引っ越ししてくる新居の新興住宅街のシーンは浦安の弁天でロケされていたようだ。この映画公開前年1983年には浦安に東京ディズニーランドが開園している。ラストは付近の首都高速湾岸線の下で撮影されたと思われる。

石井がDVD-BOX2のブックレットや小林がパンフで語っているように脚本は非常に練られていて、これまでの石井聰亙の作品と比べるとストーリーははっきりしている。また登場人物がほぼ家族5人、舞台もほとんど家の中という限られたもので、これまでの架空の都市を舞台にした群像劇とは対照的だ。

映画初出演小林克也のキレるマジメなサラリーマン家長役、秘めた暴力性と愛情の為に暴走するヴァイオレンスのユーモラスな演技は今見ても非常に適役と思うし、植木等も怪演だったし、ストーリー後半の家族間ヴァイオレンス・シーンは石井聰亙ならではのもので見応えのある作品だった。オヤジが家族間を遮断している家そのものをブチ壊し、白日夢のような家族像を出現させる、そう言ってしまえば簡単だけれどスクリーンに映し出されたラストシーンは儚げだが解放感があった。

映画『逆噴射家族』はイギリス、ドイツ等ヨーロッパで高く評価され、イタリア・サルソ映画祭ではグランプリを受賞した。
工藤夕貴は横浜映画祭で最優秀新人賞を受賞している。

アルバムの解説・クレジット部分

映画パンフレット

シングル盤リリース広告(パンフレット内)

ひとし&カツヤ「逆噴射・家族借景 c/w DO YOU REMEMBER」シングル盤ジャケット

参考文献:映画『逆噴射家族』パンフレット、『石井聰亙DVD・BOX2』ブックレット、イーター編集部編『ムービーパンクス』

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