NICO『LIVE IN DENMARK』

1983年、VU Recordsよりリリースのライヴ・アルバム。

ニコの『ライヴ・イン・デンマーク』を買ったのはいつ頃だろう。ザ・ルースターズが1984年の夏におこなった7日間のライヴの4日目にニコの「Saeta」をカヴァー(ヴォーカルは安藤広一)したの知って聴いてみたいなと思ったのがきっかけだから1985年頃か。池袋の山野楽器で買った記憶はある。どーんとニコのアップのピクチャー・ディスクが迫力あってかっこいいよね。

このアルバムにはライヴのデータはクレジットされていないが、和久井光司責任編集『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド完全版』(河出書房新社・2021年)よると1982年10月6日、デンマークのクラブ・パラマウントでおこなわれたライヴで、バックバンドはザ・ブルー・オーキッズと記載がある。

フェイドインで始まり、静かで緊張感のある演奏とニコのヴォーカルが空間に深く浸透してゆく「Saeta」。タイトなリズム・アレンジでギターが活躍する「Vegas」。この2曲は1981年に7インチ・シングル「Saeta c/w Vegas」としてリリースされているが、このライヴではどちらもキーボードが使われておらずシンプルなバンドサウンド。「60/40」(下山淳が1990年に結成するバンド名の由来か)は1981年にリリースされたアルバム『ドラマ・オブ・エグザイル』収録曲。このバンドサウンド3曲の流れがいい。続いてニコがハーモニウムを弾きながら歌うのはアルバム『ジ・エンド』(1974年)収録曲の「Valley of The Kings」とアルバム『デザートショア』(1970年)収録曲「Janitor of Lunacy」の2曲でどちらも味わい深い。やはりニコの真髄というか、ニコの本来の表現はハーモニウムと共にあると思う。ここまでがアナログ盤A面。

B面トップはボブ・ディラン作、ニコのファースト・アルバム『チェルシー・ガール』(1967年)収録曲でアコースティック・ギターのみで歌われる『I'll Keep It With Mine』。続いて“ルー・リードのナンバーを”と紹介してヴェルヴェッツの「Femme Fatale」は、ギターの音色やアレンジが好み。同じくヴェルヴェッツの「I'm Waiting For My Man」とデイヴィッド・ボウイの「Heroes」の2曲はアルバム『ドラマ・オブ・エグザイル』に収録されたカヴァー曲。ドイツのケルンに生まれベルリンで育ち、ニューヨークへと渡ったニコをヴェルヴェット・アンダーグラウンドに引き合わせたのは、“誰もが15分なら有名になれる”と言ったアンディ・ウォーホルだった。モデル、アクトレス、シンガーとして活躍、そして薬物に耽溺しながらもミュージシャンとして綱渡りのように生き抜いていくニコが、ベルリンの壁を舞台にした、“たった1日だけならヒーローになれる”という歌詞を歌うのを聴くと束の間の美しさと儚さを感じる。

おそらくこの日のショウの一部を切り取り、曲順も入れ替えアルバム化したと思われるが、当時の最新作『ドラマ・オブ・エグザイル』収録曲から3曲、同時期のシングルのAB面、それ以前のソロ・アルバムから3曲、ヴェルヴェッツの1枚目から1曲、とニコのキャリアをコンパクトにまとめて流れもいいし、演奏も80年代前半の特有のサウンドではあるものの私にとっては馴染みやすいサウンドで、ニコのヴォーカルとの相性もいいと思う。同時期(1982年〜1983年)の演奏を収録した『ドゥ・オア・ダイ!』や『エン・ペルソナ・エン・ヨーロッパ』といったヨーロッパ各地のライヴをまとめた音源よりも統一感があるアルバムになっていると思う。

Track List
Side A
1. Saeta
2. Vegas
3. 60 40
4. Valley of The Kings
5. Janitor of Lunacy
Side B
1. I'll Keep It With Mine
2. Femme Fatale
3. I'm Waiting For My Man
4. Heroes

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