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町田康著『私の文学史』

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2022年8月10日、NHK出版(NHK出版新書)より刊行。 副題は「なぜ俺はこんな人間になったのか?」 この本はNHK文化センター青山教室にて、2021年10月から2022年1月にかけて行われた講座「作家・町田康が語る<私の文学史>」の講義をもとに加筆・修正し、編集したもの。 NHK出版新書って買ったの初めてだが、よくある新書っぽいオレンジのカヴァーに上に町田の顔写真のカヴァーが被せられているが全面帯なのかな(町田町蔵+北澤組名義で1992年にリリースしたアルバム『腹ふり』のジャケットに使われたものと同じ写真で撮影はアラーキー)。 内容は、町田の読んできた文学、町田の著作に影響を与えた文学、町田のあの特異な文体がいかに考案され作られているか、等について町田自身の言葉で語られている。表紙には “はじめての自分語り”と書かれているが、"享楽に溺れ、放埒無残な暮らしをした” という若き日々の事柄については語られていない。 古典に魅力を感じ現代の熱狂から距離を置く姿勢を語り、町田の音楽活動における詞作について語っている箇所もある。江戸時代を舞台にした小説にシャム69やフランク・ザッパやボブ・マーリーやジミー・クリフの名がセリフの中に登場するようなアナーキーな文体がどのように考案され生み出されたのか、感覚ではなく論理的に説明されており、その一端を知ることができる、とても興味深い内容だった。

チバユウスケ著『EVE OF DESTRUCTION』

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2022年9月13日、ソウ・スウィート・パブリッシングより刊行。 以前紹介した、 真島昌利の『ロックンロール・レコーダー』 に続き、チバユウスケが所有するアナログ盤をディスクガイド的に紹介した本『EVE OF DESTRUCTION』が発売された。本のサイズは7インチ・シングル・レコードのサイズ。 チバのレコード・コレクションというと雑誌『ROCKS OFF Vol.6』の「オレの100枚」という連載企画で取り上げられていたから、まぁ同じ様な内容になるかなーと思って購入するか迷ったんだけどね…。 チバのROOTSを始めに、PUNK、PUB ROCK、GARAGE、ROCKABILLY&PSYCHOBILLY等ジャンル分けをし、アルバムや7インチのジャケット写真を掲載している。それぞれの章にはチバのコメントがある。T-SHITコーナーはいらなかったかなぁ。意外にブルースのレコードなかったけど、このあたりはあまり聴かないのか、それともCDで聴いているのかな。 ROOTSではルースターズやザ・モッズ、爆裂都市のサントラが掲載されていた。クラウンからリリースされたルースターズ『unreleased』のジャケット写真はタイトルのエンボス加工がよく出ていて綺麗。 ダムド、好きなんだなぁ。まぁミッシェルのバンド名由来だし。ダムドは一番多い10枚のレコードを掲載。パブロック系もフィールグッズ、ウィルコ関係、ビショップスのシングルなど多く取り上げている。私の好きなオムニバス『The London R&B Sessions』も取り上げられていた。「オレの100枚」では、“さすがにブートは紹介できません”と言われていたコステロの1979年ワシントンでのブート・ライヴ盤『Elvis Goes To Washington And Dave Edmunds And  Rockpile  Don't』のジャケットも掲載されている。 ロカビリー、サイコビリー系も多く紹介されているが、BRITISHのコーナーではロカビリーな要素もあるザ・スミスやモノクローム・セットのレコードも。90年代中期のモッド/ポップ・バンド、ザ・ウィークエンダーズの3曲入りシングル「Inelelegantly Wasted In Papa's Penhouse Pad In Belgravia

鮎川誠 Play The SONHOUSE『 ASAP (THE LATEST LIVE & STUDIO ’22)』

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2022年7月24日、HOUSE ROCKIN’ RECORDSよりリリース。 鮎川誠、サンハウスを歌う。 2022年5月2日の鮎川誠・74歳バースディライヴ(at下北沢シャングリラ)から12曲、4月23日大江戸・鬼平祭(at 南青山レッドシューズ)から3曲、6月22日博多Bassicでのライヴから7曲、6月23日博多ハートストリングス・スタジオの録音から14曲の全36曲をCD2枚に収録。 メンバーは、 Vocal&Guitar:鮎川誠 Bass:奈良敏博 Drums:坂田“鬼平”紳一 Guitar:松永浩 Vocal:LUCY 鮎川誠・74歳バースディライヴからは当日Play The SONHOUSEとして演奏した全曲が収録されており、音質もよく、サンハウスの名曲の数々を鮎川のヴォーカルで堪能できる。こうしてまとめて鮎川のヴォーカルで聴いてみると、サンハウスのヴォーカル柴山の持つシアトリカルな雰囲気や発せられる毒気というものが鮎川のヴォーカルにはほぼ感じられない。そのストレートな歌声は諧謔さを含み、“ちぎっては投げるような歌い方”はディランに似ているなと思うところもある。 メンバーとのコンビネーションは完璧とは言えないところもあるが、円熟の演奏、時にレイジーなブルースと白熱のロックンロールをどうぞ。「僕にもブルースが歌える」と「もしも」では鮎川の娘LUCYがヴォーカルを担当している。 4月23日レッドシューズのライヴと6月22日博多Bassicでのライヴ、松永浩がオーナーの博多ハートストリングス・スタジオでの録音(リハーサル風景という感じ)はいずれもエアー録音なのか、あまり音質は良くない。 ハートストリングス・スタジオでの録音で「あとの祭り」が収録されているが、サンハウスの音盤でリリースはされていない曲と思う(鮎川誠『LONDON SESSION #1』には「Rumour (Atonomatsuri)」のタイトルで収録されていた)。 私はAMAZONで購入したのだが、A4サイズのブックレット『月刊鮎川誠 No.2』とSONHOUSEのステッカーが付いてた(右上のジャケ写)。 アルバム・タイトルの『ASAP』は、録音〜リリースまで短期間(6月23日からはほぼ1ヶ月)だから、“できるだけ速く”なのかな。 ブログ『Let's Go Steady--Jポッ

若松宗雄著『松田聖子の誕生』

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2022年7月19日、新潮社より刊行(新潮新書) 1978年に開催された「ミスセブンティーン・コンテスト」のオーディション・テープの山、200近い曲数の中から蒲池法子の歌声を見つけ出した、CBS/ソニー・プロデューサー若松宗雄による松田聖子誕生の物語。 オーディションの地区予選九州大会で優勝しながらも、娘が歌手になることに頑強に反対する父親により、東京での決勝大会を辞退していた蒲池法子。若松プロデューサーの粘り強い説得で芸能界入りを許された後も難航する所属プロダクション探し。芸名が松田聖子に決まり(別名の候補があったという)、デビュー時期の調整、デビュー曲の作曲を人気作家筒美京平に打診するも断られ…と、歌声に惚れ込んでからデビューするまでの苦闘の2年間が本書の約半分を占めている。その後はデビュー後初期のエピソードを中心に50ページ程、「アルバムとシングルについて」と題して松田聖子と若松プロデューサーが共に活動し制作したアルバム、1980年リリース『SQUALL』から1988年リリース『Citron』までのアルバム解説に55ページ程記載されている。これ非常に興味位深いエピソード満載。 対象が松田聖子、書き手が伝説のプロデューサー若松宗雄だけに、新書じゃなくもっとエピソードや写真、図版を追加して単行本として出版すればとも思うが、新書だからこそ多くの人に読んでもらえる手軽さがあるのかも。本書の帯には蒲池法子の歌う「気まぐれヴィーナス」(オリジナルは桜田淳子)が入っているオーディション用カセット・テープと思われる写真が…赤ペンで福岡、蒲池と書いてある。 蒲池法子というマテリアルを入手し、プロデューサーのアイディアと指揮のもと、作詞家、作曲家、ミュージシャン、アレンジャー、デザイナー、フォトグラファー、スタイリスト…さまざまな分野のクリエイターが結集して松田聖子というプロダクツを生み出す。 THE BIRTH OF SEIKO MATSUDA こんな英語タイトルはどこにも書いてないけど、そう呼びたくなる。 1983年からは松田聖子による作詞や作曲の楽曲がアルバムに収録されるようになり、やがて松田聖子は与えられた楽曲を歌う歌い手としてだけではなく、自己を表現するために作詞作曲、プロデュース、マネジメントを含めた彼女自身によるプロダクツを生み出す環境を整えていく。