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My Wandering MUSIC History Vol.62 PANTA&HAL『1980X』

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1980年3月21日、ビクター/フライングドッグよりリリースのアルバム。 『モダーン・ミュージック』、『カメラ=万年筆』を続けて紹介したが、同時期に最も愛聴したと言っていいPANTA&HAL『1980X』も紹介しないと。ギターとベースにメンバー交代があり、PANTA&HALとしては2枚目のスタジオ・アルバム。前作の広大、雄大なイメージは拭い去られ、東京という都市をミクロな視線で捉えた内容になり、そのタイトルは(昭和)天皇崩御を見据えたものだった。 “インターナショナルな国家としての東京、その裏の一断面。ビルの路地裏のほんの一瞬をスライスしたもの”を描き、もうひとつのテーマとしてパンタが予期した“X-DAY”は、アルバム・リリースから約9年後、1980X=1989として現実のものに。 1曲目はバレリーナが履く靴がタイトルの「トウ・シューズ」。路地裏に捨てられたトウ・シューズ、つま先立ちで踊るバレリーナにかけて“背のびしたなれの果て”と歌われているのが彼女の末路を想像させる内容だが、深読みすると4曲目の「Audi 80」に通じるものを感じる。コーラス部分、フランス語は全然分からないんだけど “パ・ド・ドゥを私と一緒に踊ろう” って感じか。調べてみるとパ・ド・ドゥは男女2人で踊るバレエ・スタイルだという。トウ・シューズと同じくバレエに関連したワードだったんだな。プロデューサーの鈴木慶一により削ぎ落とされたサウンドはシンプルでソリッドになった。キーボードは使われていないため、ギターサウンドに工夫が施されている。誰も見向きもしないが、そこに捨てられているのが不自然なトウ・シューズ。その不安を増幅させるような揺らぐ高音のギターが耳に残る。 「モータードライヴ」は現代から見るとストーカーまたはパパラッチ的な内容だけど写真週刊誌(フォーカス等)の創刊はもう少し後だ。スピード感のある演奏が聴き応えあり。カメラのシャッター音に続いてニューウェイヴ的なアレンジの「臨時ニュース」。 シンセ類を使ってたらもっとテクノっぽくなったろうなと思う。言葉の使い方はさすが。 前曲の緊張感を引き継ぐ「Audi 80」。個人的にはアルバムの中でも特にお気に入り。1977年西ドイツで起きたバーダーマインホフによるシュライヤー誘拐事件を下敷きにしている内容(実際の事件で使われたのはアウディ10

My Wandering MUSIC History Vol.61 MOONRIDERS『カメラ=万年筆』

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1980年8月25日、パナム/クラウンよりリリースのアルバム。 『モダーン・ミュージック』と共に聴いていたのが、この奥村靫正デザインのジャケットに包まれたアルバム『カメラ=万年筆』。全ての曲が映画(に関連した)タイトルであり架空のサウンドトラック・アルバムとして制作された。アルバム・タイトルからして難解な印象だが、フランスの映画監督アレクサンドル・アストリュックが1948年に発表した映像理論から引用されている。奥村靫正がゴダールへのオマージュとして映画『小さな兵隊(原題:Le Petit Soldat)』のシーンを独自に写真にしていったという裏ジャケも凝った作りで、イマジネーションを刺激する出来栄え。 ムーンライダーズのアルバムの中では情緒・感傷を排したパンキッシュと感じる事の出来るものだ。それはアルバム冒頭の「彼女について知っている二、三の事柄」のスピード感に顕著なのだが、音響的なカヴァー「第三の男」のテーマを挟んで、続く「無防備都市」の冷たく性急でソリッドな感触、暗号のような歌詞の「アルファビル」、 ヒロシマに材を取ったアラン・レネ監督の映画"Hiroshima Mon Amour ”の邦題だった「24時間の情事」。ここまでが特にスピーディな展開だ。「24時間の情事」では"町にニュートロン・シャワー/やきついた彼女のシャドウ”と原爆をイメージさせる歌詞が歌われている。ベースラインが際立つ「インテリア」はベーシスト鈴木博文作、リズムトラックが実験的な「沈黙」、佐藤奈々子が歌う短い「幕間」でアナログA面が終了というのも気が効いた作り。 カヴァーで乱調気味のツイスト「太陽の下の18才」、言葉/単語の響きが面白い効果を生んでいる「水の中のナイフ」、 実験的な「ロリータ・ヤ・ヤ」はキューブリックの映画「ロリータ」からのカヴァー、かしぶち哲郎作「狂ったバカンス」。いつもはしっとりとした印象を持つかしぶち作品もこのアルバムではリヴァーブが効いたドライな出来上がり。刺激的な単語が並ぶ「欲望」、洗練されたサウンドの「大人は判ってくれない」、ラストはインストの「大都会交響楽」。 全曲が2分台~3分台の曲で短いことも印象をコンパクトにしていて、トータルで完成されたアルバムだ。実験的な要素も強く、聴き易いが難解な印象も。その実験精神は次作へと強く引き継がれることになる。 このアルバムに

My Wandering MUSIC History Vol.60 MOONRIDERS『MODERN MUSIC』

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1979年10月25日、パナム/クラウンよりリリースのアルバム。 ムーンライダーズを知ったのはPANTA&HAL繋がり(鈴木慶一による『マラッカ』と『1980X』のプロデュース)だったか、それとも1979年頃、雑誌「ロッキンf」かなにかに載ってたメンバー全員がヘルメットをかぶって演奏している写真を見たのが最初だったか…。後の映画『爆裂都市』に登場するスーパーポリスみたいな近未来的なヘルメットを被ったムーンライダーズの写真はインパクトあったなぁ。今で言うとMAN WITH A MISSIONの写真を初めて見たのと同じ感じ? それで初めて聴いたムーンライダーズのアルバムが『モダーン・ミュージック』だった。1981年頃だったと思う。音の質感というか聴いた感じがPANTA&HALの『1980X』に似てるなぁという印象があって、調べてみると『モダーン・ミュージック』は1979年7月~8月にかけて、鈴木慶一が足繁く通っていた原宿カル・デ・サックというバーと同じ建物の上階にあったスタジオ、ディスコメイト・スタジオで録音された。鈴木慶一がプロデュースしたPANTA&HAL『1980X』は1979年10月~1980年1月にかけて録音、こちらもビクター・スタジオと共にディスコメイト・スタジオがクレジットされている。もちろんバンドが違うし内容は別物だけれど、 両アルバムともに鈴木慶一が当時感じた時代の空気感がパックされているんじゃないか。 アルバムの冒頭は「ヴィデオ・ボーイ」。当時一般に普及していなかったヴィデオ鑑賞というより、テレビ中毒人間を描いた内容(同時期にリリースされたバグルス"Video Killed The Radio Star”との同時代性を感じる)。いまなら“スマホ・ボーイ”か。ソリッドなギターフレーズ、行き交う電子音、ヴォコーダーのヴォイスが印象的でアルバム中一番ニューウェイヴ化を感じられる楽曲。テクノ・ポップな「グルーピーに気をつけろ」、ハードボイルドな「別れのナイフ」、ディスコ通いのBoys&Girlsを描いたムーンライダーズ版"スターダスト・キッズ”「ディスコ・ボーイ」、「ヴァージニティ」は鈴木慶一の描く純潔または恋の衝動についての曲で当時から好きな曲。ここまでアナログA面。 このアルバムを代表する曲「モダーン・ラヴァーズ」。物質・

My Wandering MUSIC History Vol.59 佐野元春『SOMEDAY』

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1982年5月21日、Epicソニーよりリリースのアルバム。 アルバムに先駆け1981年6月21日にリリースされた佐野元春のシングル盤「Someday」のジャケットには佐野の写真に沿うように “Now we are standing inside the rain tonight”と手書き文字で書かれている。曲の中でも終盤に佐野はこのフレーズをシャウトしているが、ボブ・ディランの曲「Just Like A Woman」冒頭の一節 “Tonight as I stand inside the rain” にインスパイアされたものだ。 “土砂降りの雨の中に立っている”ようなイメージがティーンエイジャーだった頃の佐野を取り巻く状況を示唆しているようで思わずシャウトしてしまったのだという。 「Someday」という曲はティーンエイジ・イノセンスを守ろうとする者とそれを妨害しようとする者をテーマにした歌だ、と佐野は語っているが、歌われている内容から受けるイメージには、激しい現実という“雨”に打たれながらも、やり過ごしている若者達の姿がある。欺瞞に満ちた世界の流れをやり過ごしているクールでインテレクチュアルな若者達…。その彼/彼女はアルバム『サムデイ』の他の曲に登場する “ちっぽけな虹を目に浮かべた恋人” や “ハッピーマン” や “ダウンタウン・ボーイ”、 “誕生日を祝う2人” や “現代のドンナ・アンナ”、“ブルーな夢追い人”、“真夜中の旅人” や “虚無生産工場の勤め人” 達であり、 “街のブルーバード”、“サンチャイルド” であるのだろう。 イノセントで幸福感に満ちた歌詞に思えるが、その裏に佐野はCCRの「Someday Never Comes」を引き合いに出し、 “いつか”なんて来ないんだ、という意味を同時に含んでいる、と語っている。 だけど、 “いつかは誰でも愛の謎が解けて ひとりきりじゃいられなくなる” このラインは宣言と言ってもいいほどピュアな確信に満ちている。 「Someday」の冒頭で聴けるストリート・ノイズは、佐野元春がまだ会社員だった1979年9月、取材でロスを訪れていた時に街頭で佐野自身が録音したものだ。いつかアーティストとしてデビューできることを夢見ていた時の…。 さて、タイトル・トラック「Someday」の話が長くなったが、アルバム『サムデイ』リリ