My Wandering MUSIC History Vol.60 MOONRIDERS『MODERN MUSIC』
ムーンライダーズを知ったのはPANTA&HAL繋がり(鈴木慶一による『マラッカ』と『1980X』のプロデュース)だったか、それとも1979年頃、雑誌「ロッキンf」かなにかに載ってたメンバー全員がヘルメットをかぶって演奏している写真を見たのが最初だったか…。後の映画『爆裂都市』に登場するスーパーポリスみたいな近未来的なヘルメットを被ったムーンライダーズの写真はインパクトあったなぁ。今で言うとMAN WITH A MISSIONの写真を初めて見たのと同じ感じ?
それで初めて聴いたムーンライダーズのアルバムが『モダーン・ミュージック』だった。1981年頃だったと思う。音の質感というか聴いた感じがPANTA&HALの『1980X』に似てるなぁという印象があって、調べてみると『モダーン・ミュージック』は1979年7月~8月にかけて、鈴木慶一が足繁く通っていた原宿カル・デ・サックというバーと同じ建物の上階にあったスタジオ、ディスコメイト・スタジオで録音された。鈴木慶一がプロデュースしたPANTA&HAL『1980X』は1979年10月~1980年1月にかけて録音、こちらもビクター・スタジオと共にディスコメイト・スタジオがクレジットされている。もちろんバンドが違うし内容は別物だけれど、 両アルバムともに鈴木慶一が当時感じた時代の空気感がパックされているんじゃないか。
アルバムの冒頭は「ヴィデオ・ボーイ」。当時一般に普及していなかったヴィデオ鑑賞というより、テレビ中毒人間を描いた内容(同時期にリリースされたバグルス"Video Killed The Radio Star”との同時代性を感じる)。いまなら“スマホ・ボーイ”か。ソリッドなギターフレーズ、行き交う電子音、ヴォコーダーのヴォイスが印象的でアルバム中一番ニューウェイヴ化を感じられる楽曲。テクノ・ポップな「グルーピーに気をつけろ」、ハードボイルドな「別れのナイフ」、ディスコ通いのBoys&Girlsを描いたムーンライダーズ版"スターダスト・キッズ”「ディスコ・ボーイ」、「ヴァージニティ」は鈴木慶一の描く純潔または恋の衝動についての曲で当時から好きな曲。ここまでアナログA面。
このアルバムを代表する曲「モダーン・ラヴァーズ」。物質・快楽至上主義的な時代の始まり(1980年代が始まる前夜)、その時代の恋人たちと刹那を描いた傑作だ。かしぶち哲郎作の「バックシート」は、不気味な振動を伴うストリングスアレンジが破滅的な愛を予感させる。スリリングな駆け引きと大人のままごとのようなラヴ・ソング「バーレスク」、ルイ・マル監督のフランス映画『鬼火』(1963年)にインスパイアされた繊細でドラマチックな「鬼火」。当時の鈴木慶一の心象がそのまま楽曲に移し替えられたようなダウナーなトラックでアルバムは終了する。後味は少し悪い。ただフランス映画への興味はこのあたりから持ったかも。
Devo、XTC、ポリス等の影響を受けニューウェイヴ化したムーンライダーズのアルバムといわれているが「別れのナイフ」、「ヴァージニティ」や アナログB面「バックシート」以降は音の質感がソリッドなモダン・ポップ的な印象を強く感じる。
参考文献:鈴木慶一著「火の玉ボーイとコモンマン」、PANTA&HAL BOXブックレット(2004年)