My Wandering MUSIC History Vol.61 MOONRIDERS『カメラ=万年筆』
『モダーン・ミュージック』と共に聴いていたのが、この奥村靫正デザインのジャケットに包まれたアルバム『カメラ=万年筆』。全ての曲が映画(に関連した)タイトルであり架空のサウンドトラック・アルバムとして制作された。アルバム・タイトルからして難解な印象だが、フランスの映画監督アレクサンドル・アストリュックが1948年に発表した映像理論から引用されている。奥村靫正がゴダールへのオマージュとして映画『小さな兵隊(原題:Le Petit Soldat)』のシーンを独自に写真にしていったという裏ジャケも凝った作りで、イマジネーションを刺激する出来栄え。
ムーンライダーズのアルバムの中では情緒・感傷を排したパンキッシュと感じる事の出来るものだ。それはアルバム冒頭の「彼女について知っている二、三の事柄」のスピード感に顕著なのだが、音響的なカヴァー「第三の男」のテーマを挟んで、続く「無防備都市」の冷たく性急でソリッドな感触、暗号のような歌詞の「アルファビル」、 ヒロシマに材を取ったアラン・レネ監督の映画"Hiroshima Mon Amour ”の邦題だった「24時間の情事」。ここまでが特にスピーディな展開だ。「24時間の情事」では"町にニュートロン・シャワー/やきついた彼女のシャドウ”と原爆をイメージさせる歌詞が歌われている。ベースラインが際立つ「インテリア」はベーシスト鈴木博文作、リズムトラックが実験的な「沈黙」、佐藤奈々子が歌う短い「幕間」でアナログA面が終了というのも気が効いた作り。
カヴァーで乱調気味のツイスト「太陽の下の18才」、言葉/単語の響きが面白い効果を生んでいる「水の中のナイフ」、 実験的な「ロリータ・ヤ・ヤ」はキューブリックの映画「ロリータ」からのカヴァー、かしぶち哲郎作「狂ったバカンス」。いつもはしっとりとした印象を持つかしぶち作品もこのアルバムではリヴァーブが効いたドライな出来上がり。刺激的な単語が並ぶ「欲望」、洗練されたサウンドの「大人は判ってくれない」、ラストはインストの「大都会交響楽」。
全曲が2分台~3分台の曲で短いことも印象をコンパクトにしていて、トータルで完成されたアルバムだ。実験的な要素も強く、聴き易いが難解な印象も。その実験精神は次作へと強く引き継がれることになる。
このアルバムに使われた映画のタイトル、深夜のTV放送や後にレンタルで探して観たなぁ。
参考文献:鈴木慶一著「火の玉ボーイとコモンマン」、「レコード・コレクターズ2001年6月号」