みうらじゅん『アイデン&ティティ 24歳/27歳 』
最近はコミック(マンガ)もめっきり読まなくなったし、自分で買うこともなくなった。 私がマンガをよく読んでいた頃にくらべて作家の数も増えたし、どの作品が面白いのか全然わからない。 友人に借りて読むくらいで、この『アイデン&ティティ』もその一冊。 本書は「アイデン&ティティ」と「マリッジ」という二部構成になっている。
みうらじゅんというのもボブ・ディラン好き(コレクター)の絵書きというのを知ってるだけで、 マンガも出してるんだという感じだったのだが、薦められて読んでみたらすごく面白かった。 バンド・ブーム真最中(1988年頃?)にデビューした”SPEED WAY”というバンドのギタリスト中島が主人公。
みうらじゅんというのもボブ・ディラン好き(コレクター)の絵書きというのを知ってるだけで、 マンガも出してるんだという感じだったのだが、薦められて読んでみたらすごく面白かった。 バンド・ブーム真最中(1988年頃?)にデビューした”SPEED WAY”というバンドのギタリスト中島が主人公。
SPEED WAYはお手軽にでっち上げたバンドで、ブームにのりメジャーデビューし人気者になっていったが、 ある日中島のアパートにハーモニカホルダーをつけて、ギターを持ったボブ・ディランが “今夜泊めてくれないか”といって訪ねてきたところから、中島は自分のやりたい音楽(=ロック)と、 現在の自分の演奏している音楽のギャップに苦しむようになる。ちなみにディランは中島にしか見えないし、 コンサート会場や飲み屋や彼女の部屋などどこにでも現れる。
自分の表現したいことと、売れる/売れないというレベルでのギャップ、バンドと社会の関係に苦しんだり、ファンの女の子や、 自分を支えてくれる女性との関係に悩んだりしているところへ、 ディランは「I Threw It All Away」や「Like A Rolling Stone」、「It's All Over Now Baby Blue」、「Buckets Of Rain」 といった歌を歌いながら現れ、中島の心の奥底に潜んでいるロックや生きていく事に対するピュアな感情を刺激する。 中島は次第に自分の内面から沸き起こる思いを周囲に向けて主張していくことにより、多くの物を失っていく。 しかし自分で歌い始める事によって未来に光を見い出すところで第一部が終わる。
第二部は友人の結婚式場にジョンとヨーコが現れる所から始まる。もちろん、中島にしか見えない。 第一部に続きバンドの方向性や自らの表現への苦悩が描かれているが、第二部は愛がテーマとなっているようだ。 遠く離れてしまった恋人への想いと身近にいる女性への欲情。さらに内面を見つめる中島にジョンとヨーコは 「Imagine」、「I'm Losing You」、「Love」、「Woman」といった曲と共に真実の愛を問いかける。
読めばなんだか”青臭い青春”というストーリーだが、ロックの(プレイヤーや楽曲の)持つ ”反逆”、”DIY精神”、”愛”、”セックス”、”夢”といったものがうまく描かれている。 ”やらなきゃならないことをするだけさ、だからうまくいくんだよ”(Buckets Of Rain/Bob Dylan)と、 ”きみはぼくの事を夢想家というのかな”(Imagine/John Lennon)という歌詞が中島の、 あるいは作者自身の人生を進めていく上での両輪となっているように、その言葉は 読者に対する問いかけにもなっていると歳甲斐もなく感じてしまうのであった。
出版 : 角川文庫/角川書店
発行 : 1997年