花田裕之『風が吹いてきた』

1996年5月29日、東芝EMI よりリリースのアルバム。

花田裕之のソロ1作目『Riff Rough』はかなり気合いの入った売り方だったと思う。 ジャケット&ポスターは美顔で、雑誌によるインタビューや宣伝もかなりあった。 でも個人的にはあまり内容は良くなくて、ルースターズ時代の下山のようなタイプ/役割の布袋という ギタリストをパートナーに選んだというのも今一つ理解できなかった。 発売時のライブも観たが、池畑のドラミングを真近に見られたのは良かったが、 布袋のあの”布袋”としか言い様がないギタープレイがかなり印象に残った。

で、そのまま2~4作目までは購入せず、いよいよ池畑、井上、下山とバンドスタイルでアルバムを リリースすると聞いて期待して買った『Rock'n' Roll Gypsies』は”うーむ”という印象だった。 続く『Rent A Song』は買わず、『風が吹いてきた』は手に入れたが、 やはり個人的にはいま一つ、という印象をその時は受けた。 ここで花田のソロ作を全部売りに出すというルースターズ・ファンとしては許しがたい暴挙に出てしまった。

数年後のある日『Rent A Song』を購入、花田にはこんなルーツがあるんだと思い、 これなら『Rock'n' Roll Gypsies』や『風が吹いてきた』の世界もあるなとそれまでのCDを全部買い直した。 そのころになると私もアメリカの70年代ロックを聴くようになっていたので、 サウンド的に少しは馴染み易くなっていたのかも知れない。 (買い直したとは言え、やはり1作目~4作目まではCDラックから取り出す事はめったにない)。

これまでの花田のソロ・アルバムでは7枚目にあたる『風が吹いてきた』が好きだ。
このアルバムを製作していた1995年は花田にとって「かなり落ち込んでいた」年だったようで、 ルーティン・ワークとなっていた年に1枚のアルバム作りや、 それなりに出来上がっていく曲作りに嫌気がさしていたという。このアルバムの製作では、 そういった「面白くない」気持ち、気合いの入らない「虚脱感」、 どうにでもなれという「虚無感」を歌詩の中へ吐き出していたのではないかと花田は語る。

その歌詩がとてもいい。
”素敵な出会いは眠りの中だけ、疲れ忘れさせてくれる”(Ooh La La)、
”便利な生活、疲れてく気持ち”(街の生活はせちがらいなあと想っている男の唄)、
”流れに身をまかせ”(二人でいよう)、
”街から街へと流れてゆくのさ”(Honey Bee)、
これらの歌に登場する「疲れ」、「どこかへ行きたい」、「流れに身をまかせたい」という言葉は、 当時の花田の気持ちの現れなのだろう。
ラストのタイトル・トラック「風が吹いてきた」では、
”誰かに伝えたい、まだ生きてると”、”まだ歩いてると”、 ”誰も知らない俺だけのハッピーエンド超える”といったフレーズが、 花田の感じていた孤独感を見事に作品に昇華させている。 それまでの作詩家に頼んでいた作品や、 どこか作りごとめいたラブソングとは一線を画す、花田自身の言葉による歌詩だと思う。

また「かなわぬ恋」では洒落たサウンドで大人の恋の喪失感を表現(名曲!)、「エレクトリック・マッド」の終末的な内容も良い出来で、 ”天国のとなり街”は名フレーズ。柴山の作詩「Free Bird」、プロデューサーの小西が作詩した「洪水の前に」も 前者は流れ者、後者はブルース的な内容でアルバムの統一感を乱していない。

サウンド的には前作よりもアコースティックでフォーキーな感触の曲が増え、 アコーディオン、マンドリンなどが効果的に使われている曲もある。 アップ・テンポな曲はなく、落ち着いた印象を受ける。 オープニングと10曲目で聴けるインストの「ハイウェイ」のスライド・ギターもいい感じだ。 少し投げやりになった花田の、肩の力が良い方向に抜けたアルバムとなった。 全編に渡って井上のベースは花田の世界をしっかり支えているなと思う。

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