THE MODS「ONE MORE TRY」
1982年6月20日、日比谷野外音楽堂。
「Crazy Beat」の演奏が終わる頃降り始めた雨は、あっという間に強く、激しくなり、バンドも客もずぶぬれのままステージが続けられた。アンコールで森山は“この雨はたぶん俺達の(1周年の)お祝い、そうだろ?”と言って「Two Punks」を熱気がもくもくと蒸気となって立ち上る客と合唱した。次の「One More Try」が始まってすぐ、 森山のボーカルマイクはキンキンと鳴って、辛うじて声を伝えるだけになってしまった。苣木のギターの音は細くなり、やがてまったく音が出なくなった。 ベースの音量も不安定だ。激しい雨がライトに照らされ針金のように降っている。
“柔らかいベッドはもうないぜ
暖かい毛皮のコートもない
あるものといえば握り拳くらいのものさ”
森山はこの歌詞を歌った後、壊れたマイクを手放した。苣木はスペアのギターを取りにバックステージへ姿を消した。ステージの上にあるのは“握り拳くらい”しか残っていないバンドの姿だった。ドラムとベースのビートに、4,000人の歌声。
“さあもう一度 思い切りやれよ
さあもう一度 思い切りやれよ
One More Try One More Try”
客達が歌う。森山は客席に降りて行き共に叫んだ。
苣木が森山のギターを持ってステージに戻ってきた。PAからも森山の声が聞こえるようになった。バンドはこの後2曲を演奏し、ステージを後にしたが、終るのを待っていたかの様に雨は小降りになったという...。
あきらめずにステージを続けるバンド、それを全身で受け止め支える観客達。もちろんスタッフも対応に追われ走り回る。過酷な状況でも、楽器がこわれても、全てが剥ぎ取られたとしても、今出来ることを思い切りやれよ。
THE MODSが図らずも自らの歌を具現化したこの日のライブ映像は、心破れた若者達が辿り着いた約束の地(北里談)への貴重な記録。