CHRIS ISAAK「WAITING FOR MY LUCKY DAY」

1996年発表の『Baja Sessions』より。

初夏という季節によく取り出すアルバムがある。
クリス・アイザックの『バハ・セッションズ』。

半袖でもいいくらいの気候で、太陽の光がしっかりと熱を持って眩しく、でも風が吹くとすーっと涼しい。 乾いた空気が花と緑を鮮やかにする季節に聴きたい。休日に少し遅く起きた朝でも、太陽が真上にある日中でも、日が暮れるのが遅くなった夕方でも、涼しい夜でもピッタリのアルバムだ(まぁ真夏でも晩夏でもいいとは思うが…)。

このアルバムはクリスがメキシコ・ツアー中に構想が生まれ、メキシコの地名にちなんで名付けられた。 南国的な雰囲気のアコースティックなアレンジで統一され、ドリーミーでリラックスしたアルバムだ。クリスのファーストアルバム『Silvertone』から3曲、ヒットアルバム『Heart Shaped World』から1曲、 『San Francisco Days』から1曲(映画『True Romance』に使われていた「Two Hearts」)をリ・レコーディング、 ロイ・オービソンの「Only The Lonely」、スタンダード・ナンバー「South of The Border」、 他にもカリプソ、ハワイアンも歌われている。

どの曲を選んでもよいのだが、このアルバム用のクリスのオリジナル2曲から1曲を選んだ。
ドリーミーでリラックス、と書いたが、サウンドがそう聴こえても歌っている内容となると、そうでもない。ロイ・オービソンの「Only The Lonely」が象徴しているように、歌われている内容の大半は恋に破れ、片思いの、孤独な男 。または幸せな日々から取り残された男(例外は幸せな2人を歌ったハワイアン「Sweet Leilani」)。これはクリスのデビューから変わらない特徴だ。

「Waiting For My Lucky Day」はゆったりしたリズムにのって、テキサスの地で全てを失い、うまくいかない日々に耐えながら、風向きが変わるのを待っている。陽が昇るのを待っている男が歌われている。その歌が悲しく湿ったものにならないのは、サウンドが乾いていて、クリスの歌い方がやさしく、暖かいトーンを持っているからだろう。

クリス・アイザックを聴き始めたのはデイヴィッド・リンチが映画に使用した曲や、リンチが撮ったプロモビデオ等が入り口だった。エルヴィス・プレスリーを思わせるルックス、低音からファルセットまで表現力豊かなボーカル、ルーツを踏まえたロッキンな曲ももちろんだが、 リンチの世界に通じるようなクールでストレンジな雰囲気を持った楽曲、アレンジも魅力的だった。バンドの看板ギタリストで、ストレンジな音作りに多大な貢献をしていたジェイムス・カルヴィン・ウィルゼイと『San Francisco Days』を最後に別れてしまった時は残念に思ったが、これまでのようなピンと張り詰めた緊張感、奇妙な不安感をなくした、フレンドリーなこの作品も大きな魅力となった。

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