頭脳警察「落ち葉のささやき(ORIGINAL VERSION)」
CD(SHM-CD)7枚とDVD2枚で発売された9枚組ボックスの中から、こういうのを待っていたんだよと言うディスク1は、2010年8月8日にサウンドクルースタジオで録音されたライブ・テイク8曲を収録。
ひとり赤軍兵士の詩とも言える「風の旅団」や壮絶な銃撃戦を再現した頭脳警察バージョンの「7月のムスターファ」、歌詞が追加されたロングバージョンの「万物流転」、パンタが “この曲こそ本当の頭脳警察なんだ ”と言っていた「間違いだらけの歌」、以前このページでも取り上げた「見知らぬ友への反鎮魂歌」、2分ちょっとのガレージ・パンク・ショートナンバー「うたかたの命」、どれも頭脳警察の代表作といっても良く、聴き応えがあり豊かな仕上がりだが、 中でも朗読が加えられ13分の大作となった「時代はサーカスの象にのって」と演劇のセリフが加えられた「落ち葉のささやき」が出色の出来だ。「時代は~」は以前シングル盤を取り上げたので「落ち葉のささやき」を。
以前ソリッドからリリースされた『頭脳警察LIVE!』に収録されていた三ノ輪モンドでのライブ盤ではロング・ヴァージョンとして聴く事が出来たが、CD『music for 不連続線』でその歌詞と演奏のみのカラオケが発表されていたオリジナル・ヴァージョンが、現在の頭脳警察により蘇った。
『music for 不連続線』のブックレットに詳しく記載があるが、この曲は劇団不連続線の公演『いえろうあんちごね 特別攻撃隊スターダスト』(1974年)の劇中歌で、作詞は劇団主宰であり演出家の菅孝行。頭脳警察のラストアルバム『悪たれ小僧』などにはPantax's World名義になっているが、これは音楽を提供しながら劇団からのギャラに期待できないパンタ自身が考えた策ということだ。今回のBOXでもPantax's World名義になっている。
夏という季節の終わり、過ぎ去っていく風に音を立てる落ち葉に1974年という“ラジカリズムの後退戦”の時期を意味づけ、安田講堂~浅間山荘を経て終息していく反体制運動、展望の持てない状況を照らし合わせたとも思える内容だ。今回セリフが再現され強くその印象を濃くしているように思う。 退路を断って再び街頭へ出て、たとえひとりになっても発火点を探そうと、(パンタ自身の歌詞にも繰り返し出てくる) 未だ闇に覆われた世界を切り開こうとする意志があらわになっているのではないか。
“…ノートを閉じ スタンドの明かりを消し
服を着替えて
アパートの鍵をかけよう
もうこの鍵を使うことは
決してないだろう…
という退路を断つかのようなセリフの後に歌われる“黒くて重い塊のありかまさぐり”は、銃を思わせるフレーズだ。
今回のBOXブックレットに、パンタが演劇の言葉の取り上げ方が斬新であると語っていたので、不連続線などの演劇との関わりを通じて強く影響されたようだ。曲の途中、アップテンポになったりセリフが挿入されたりといった曲構成はスリリングであり、ユニークで イメージの膨らみを与えてくれるものだ。
アコースティック・ギターのストローク、キーボード/オルガンが印象的に響き、さわやかでリリックなこの曲に秘められたものは、このBOXでかき消された言葉達よりも過激で危険なものではないか。