OMNIBUS a Go Go Vol.75『PILLOWS & PRAYERS』
イギリスのインディ、チェリー・レッド・レコードから1982年12月にリリースされたコンピレーション。チェリー・レッドはイアン・マクネイとリチャード・ジョーンズによって1978年に創立、同年6月にThe Tightsというパンク・バンドの7インチ・レコードが第1弾リリースだった。
『Pillows & Prayers』はA&Rとしてチェリー・レッドに参加していたマイク・オールウェイが企画、1982年時点でのレーベル・パッケージといえるアルバム。彼はイアンにアルバムの売価を1ポンド以下にする事を提案、イアンはこのコンピレーション・アルバムをプロモーション・プロジェクトと位置づけ、アーティストに対する印税支払いを無くす同意を取り付けることで制作コストを安く抑える事ができた。オリジナル英盤のスリーブ右上には“PAY NO MORE THAN 99p”と印刷されている(日本盤LPはそれほど廉価ではなく定価2,000円だった)。
このアルバムを初めて聴いたのは、たぶん1984年頃、輸入盤を友人から借りたんだと思う。エコー&ザ・バニーメンやジョイ・ディヴィジョン、バウハウス、ザ・スミス、アズテック・カメラなんかのニュー・ウェイブを聴いていた時で、それらのグループと聴き比べるとハンドメイドな印象を受けた覚えがある。アコースティック・ギターやノン・エフェクトのエレキ、リズム・ボックスを使った楽曲や、小さな部屋で録音されたような(宅録的な、手っ取り早く言うとヘタウマ的、DIYな)音響を感じさせるパーソナルなイメージだった。
中でも特に印象に残ったのは、ベン・ワット「Some Things Don't Matter」、エブリシング・バット・ザ・ガール「On My Mind」で、ニュー・ウェイブを聴いていた自分がボサノヴァを意識したのってこのコンピなんじゃないかと思う(それかスタイル・カウンシルの『カフェ・ブリュ』)。アコースティックでナチュラルな録音が気に入り、チェリー・レッドから出ていたトレイシー・ソーンのアルバム『ア・ディスタント・ショア』を購入、かなり愛聴した。
他にはトレイシー・ソーンが在籍していた女子3人組マリン・ガールズ、ネオ・サイケデリックのフェルト、ユニークなモノクローム・セット、手作り感のあるサウンドのアイレス・イン・ギャザ、 ポエトリー・リーディングのアッティラ・ザ・ストックブローカー等を収録。
EBTG関連とフェルト以外は単体で聴く事は無かったのだけれど、ジャケット、タイトル、サウンド・イメージ等トータルで忘れられないコンピレーションとなった(ジャケット写真は古い百科事典から、タイトルはやはり古い児童本からマイク・オールウェイが見つけたという)。
このコンピは1万枚のプレスから始まったが、やがて英インディ・チャートのトップとなり、1年近くトップ30に留まり、12万枚以上を売上げるベスト・セラーとなった。