追悼・佐久間正英 四人囃子「DEEP」
その日、家に帰ってハードディスク・レコーダーに録画してあったNHKのドキュメンタリー「ハロー・グッバイの日々~音楽プロデューサー佐久間正英の挑戦~」をもう一度見た。
この番組を見た時、あまりにも衰弱している姿が痛々しかったのだが、その体調にもかかわらず長時間レコーディング作業をする姿勢に感銘を受けた。「Last Days」と題された佐久間の作ったラスト・ソング。ボーカルは元JUDY AND MARYのTAKUYA。ドラムは屋敷豪太。 佐久間のベース、ギター、ピアノのダビング。体調的にはとてもつらい作業でソファに横になったり、点滴してれば楽なんだが…と話していたり。その姿に最後の作品を残すという執念を感じるのでは無く、ディティールにこだわり、スタジオ職人的に淡々と作業し、辛くても満足出来るまでやめられない、という印象を受けた。「Last Days」はもうじきリリースされるコンピレーション盤『SAKUMA DROPS』に収録されるそうだ。
それから1989年に再結成というか活動を再開した四人囃子のライヴ・ビデオ『FULLHOUSE MATINEE』を観た。当時30歳半ばの佐久間が音楽的に牽引したこの時の四人囃子は、森園、佐藤満に続く3人目のヴォーカル&ギタリスト、といった趣きで、前任2人とは全く違う魅力があるのだが、線の細いヴォーカルはともかく、ギターの腕前はなかなかのものだ。このビデオでもストラトキャスターのアームを壊れんばかりに操るエキサイティングなプレイが見られる。 ビデオでは11~13曲目になる「眠い月」~「一千の夜 (1000 Nights)」~「DEEP」の流れは89年型四人囃子のライヴのハイライトといえるものだ。
なかでもこの「DEEP」はダンサブルでマシナリーなファンクのリズムと小気味よくキレたカッティングのギター、佐久間、岡井、坂下の3人に加えてホッピー神山やベースの大堀薫、サックスの藤沢由裕等のゲストによる豪華なサウンドではあるものの、ヴォーカルを含めて体感的に迫ってこない冷徹ファンクの不思議な魅力。佐久間は無表情に冷めた視線を観客に投げかける奇妙な表情で熱の入ったギターを聴かせてくれる。
このビデオに映る30代の佐久間と昨年のドキュメンタリーで見た61歳の佐久間正英。年を重ねた風貌の違いはあたりまえだが、音楽に対する眼差しと姿勢に違いは無いと感じた。
どこかのインタビューで佐久間がプロデュース等に関わったBOOWYやJUDY AND MARY、グレイなどが大きくブレイク・大衆化、産業化した事により、それらのバンドを手本にした日本のロック定型化と音楽的底の浅さを引き起こしたA級戦犯と言われている、と佐久間自身が冗談交じりに語っていたが、まぁ佐久間正英がプロデュースをしたからと言って必ず売れたものでもないし、影響力を持つバンドになった、という訳ではないが、それも今では日本のロックの確かなひとつの水脈だろう。