佐野元春 WITH THE HEARTLAND 「ロックンロール・ナイト」
佐野元春が1983年4月にリリースしたコンピレーション・アルバム『No Damage~14のありふれたチャイム達~』が、同コンピの最新リマスターCD、1983年3月の中野サンプラザでのライヴを収録したライヴCD、1983年7月に公開された映画『FILM NO DAMAGE』を収録したDVDの3枚組デラックス・エディションとしてリリースされた。
オリジナルのコンピ『No Damage』は友人にレコードを借りてカセットに録音し良く聴いていた。特に“Boys' Life Side”と名付けられたアナログA面は各曲の配置・流れも良かったなぁ。いや、B面“Girls' Life Side”も良い曲揃ってる。まぁ、とにかく繰り返し聴いていたアルバムだった。その割には『No Damage』のアナログ盤やCDを自分で買うことはなかったのだけれど(細かなヴァージョンの違いはあるけど収録曲の7インチやオリジナルアルバムや他の編集盤CDを持ってるから)、今回はライヴCDにつられて購入。
そのライヴCD『ロックンロール・ナイト ライヴ・アット・サンプラザ1983』は1983年3月18日、中野サンプラザでおこなわれた“Rock'n' Roll Night Tour”最終日の模様から14曲を収録したものだ。この時のライヴからは、いくつかの楽曲がビデオ『Truth '80-'84』や『The Out Takes』、ライヴCD『THE GOLDEN RING』に収録されているが、こうしてまとまって1枚のCDになるのは初めて。アレンジがガラリと変わった「バック・トゥ・ザ・ストリート」や小粋な演奏で観客とのやりとりも楽しい「ドゥ・ホワット・ユー・ライク」も聴きどころだ。
今回このライヴCDで改めて「ロックンロール・ナイト」を聴いて、あぁこの曲に凄く影響受けたな、と感慨に浸ってしまった。オリジナル・スタジオ・ヴァージョンが収められているのは1982年リリースのアルバム『サムディ』。このアルバムに出会った頃にはオートバイや車の免許を取れる年齢になり、活動範囲も広がり、深夜・朝までの活動(要するに夜遊び)が可能になった時期。都市の若者達を描いた『サムディ』は地方に暮らす若者達のBGMでもあったわけだ。
大人になる事を延期しているような日々。暗闇に紛れて何かが起こるのを待っていた幾つもの夜。濃いブルーが白々と変わっていく街を煙草をくわえながら見つめていた夜明け。私たちは無邪気だったが、もちろん“Sexyな天使達”ではなかった。朝が来るまで悪ふざけをして、何者かになった・なれるようなふりをしていただけだ。
あの頃から長い時が過ぎて、今この曲を聴くと果たして自分は答えを見つけたのか、どんな答えが待っていたのか、と考えてしまう。
瓦礫のような汚れた世界の窓のなかで生活は続く。繰り返し川は現れるだろう。そこへたどり着き、その向う側にしか答えはないのだ。ただ問い続けるしかないんじゃないか、と今この曲を聴いて思う。
このライヴ・ヴァージョンでは時計の針のようなリムショットの響きに始まり、歩くようなリズムで曲が進み、途中からスタジオ・ヴァージョンのようなフォーク・ロック調になるが、このアレンジも素晴らしい。バンドの魂の入った熱演と共にリリカルで繊細な演奏を聴くことができる。
この歌でもっとも感銘を受けたフレーズ、
“ 全てのギヴ&テイクのゲームに さよならするのさ”
だけど、もちろんゲームはまだ続いている…。