Drop's「十二月」
前作『Window』から10ヶ月という短いインターバルでDrop'sのアルバムがリリースされた。
バンドの多様性を作り出すことを目指した前作とは変わり、今作ではVo&Gの中野ミホが全ての作詞作曲を手掛けていて、中野のパーソナルな部分にフォーカスした楽曲・アルバム作りとなったようだ。
前作発表後には映画2作の主題歌を制作というトピックもあった。バンド外部からの要請をサウンド化するという難しさもあったと思うが、今年3月に公開された映画『無伴奏』の主題歌「どこかへ」と今年6月に公開される映画『月光』の主題歌「月光」がこのアルバムに収録されている。どちらの曲もDrop'sとしての新しい面を見せていると思う。
取り上げた1曲は3曲目に収録されている「十二月」。
Drop'sらしいオルガンとヘヴィなギターに包まれたミディアムナンバー。途中ドラム、ベース、アコギの演奏だけで歌われている部分の、
“あの時 書いた 歌だけが なぜかしら
あざやかで うつむいて しまうのです
そうねきっと 私はあなたで あなたは私だったね”
という歌詞が成長と変わりゆく自分に対する僅かな喪失感を窺わせる。中野の求めても答えを得られないエモーショナルな歌声が、聴いている者の感情を揺さぶるナンバーだ。
勢いのある「G.O.O.D.F.E.E.L.I.N.G.」に始まり、ハネたリズムの「Cloud City」、 アコースティックでスローな「ダージリン」、アルバムタイトル・トラックの「ドーナツ」。 “からっぽ”っていう言葉はいつもロックンロールにとって重要なテーマだ。中野ミホは自分のぽっかり穴の開いた心と、甘ったるいだけのうぬぼれた気持ちをドーナツになぞらえて歌う。
実は一番好きかも「LONELY BABY DOLL」は、ストレートなロックンロール。 一発録り、カセットテープに落としてラジカセで鳴らし再度マイクで録音したという(日本脳炎もやってたな)粗いサウンドが魅力。ラストのグルーヴィな「からっぽジャーニー」。からっぽを意識しながら “からっぽの分だけ 吸い込む空気を”って歌詞が秀逸。その他、全12曲を収録。
5月末にリリースされたアルバムだが、歌われる内容は“十月”、“十二月”、“カーディガン”、“クリスマス”、“羊の毛のマフラー”など寒い季節のアイテム。このあたりの曲作りはマイペースだなぁ、と感じる。
アルバム収録曲「ドーナツ」のMV。東京の月島でロケしたようだ。