汝、我が民に非ズ「夏の午後」
町田康が新バンドでライヴ活動をしていることはネットで読んでいたが、その新しいバンド “汝、我が民に非ズ”(なんじわがたみにあらず)のファースト・アルバムがリリースされた。町田康としては前作『犬とチャーハンのすきま』(2010年)から8年ぶりのアルバム・リリースとなる。それにしてもイイ名前のバンド名だ。メンバーは、
Vocal:町田康
Guitar:中村敬治
Bass:瀬戸尚幸
Keyboard:大古富士子
Drums:高橋結子
Sax、Flute:浅野雅暢
全作詞は町田康、作曲はギターの中村敬治が8曲、キーボードの大古富士子が3曲。アレンジはバンドが全曲をおこなっており、 プロデュースは中村敬治。
演奏陣は私は初めて見る名前ばかりだが、調べてみるとそれぞれキャリアのある手練ればかり。柔軟な演奏は町田のヴォーカルに合っていて、私は『メシ喰うな!』以来の演奏と歌の一体感を感じた。
取り上げたのはアルバムの6曲目に収録されている「夏の午後」。
キーボード大古富士子作曲のボサノヴァ調の演奏にのせて、町田はメロディを丁寧になぞり、心の星を射る、心に水を撒く誰かへの恋を歌う。
“星を射るのは誰なのかしら
あたら狩人みたいに
私の人生なんて二流映画のできそこないよ
なのに言葉が響いて
嘘がよみがえる”
アコースティック・ギターの響き、リリカルなピアノ、間奏のアコーディオンもいい。
だれか女性歌手にカヴァーしてもらいたいなぁ。
他、オープニング「だから君は今日も神を見る」や「リターン」、「いろちがい」といった曲では町田康節炸裂。これもキーボード大古富士子作曲の「RB」はエレピが印象的で演奏だけ聴いていればフュージョン的と言ってもいい曲。ユーモラスな「ひがくれ哀話」、殺伐とした歌詞だが演奏にはまろやかさがある「貧民小唄」。サックスが効いている。
クイーンのようなコーラスとアレンジの「風のなかで君は」はダイナミックさが魅力でこれも非常に印象に残る曲だ。こざっぱりした演奏だがそれがまた切ないタイトル・トラック「つらい思いを抱きしめて」、与えられた安全地帯で満足していていいのか?という意味にも聴こえる歌詞がロッキンな演奏にのせて歌われる 「白線の内側に下がってお祈りください」。実はこれがいちばん好きかも。
ラストは亡き愛犬に捧げた「スピンク」。哀切。
汝、我が民に非ズ『つらい思いを抱きしめて』全曲ダイジェスト試聴。