GILLAN「TROUBLE」
The Bernie Tormé Bandはファースト・シングル「I'm Not Ready」リリース後、1979年に4曲入りのセカンド・シングル「Weekend / Secret Service c/w All Night / Instant Impact」をリリース、BoysやGeneration X、Bethnalといったバンドをサポートし、自らもライヴをおこなっていたが、バーニー ・トーメは自己パロディ化したパンク・シーンに幻滅していた。さらに彼のバンドが2枚のシングルをリリースしたJet Recordsから契約解除され、The Bernie Tormé Bandはあえなく解散。
その頃バーニーはかつてスクラップヤードというバンドで一緒にプレイしていたベーシストのジョン・マッコイに再会、マッコイが参加していたバンドGILLANのヴォーカリスト、イアン・ギランに誘われバーニー・トーメはギタリストとしてGILLANに加入する。バーニー加入についてイアン・ギランは、
“バーニーを初めて見たのはコルチェスター大学のライヴで凍えるほど寒い冬のある日だった。彼がギターをアンプに繋ぐと、寒々とした会場に暖かい流れるようなサウンドが満ち溢れたよ。次の瞬間、彼は爆発したんだ。膝をついて、ギターを食いちぎり始めたのさ。あんな光景は見たこともなかった。だから、ギランにメンバー交代があるとすれば、バーニーに加入してもらうのが当然に思えたんだ”
と語っている(イアン・ギランのオフィシャルHP Cramba! のGigographyによるとバーニーはアベリストウィス大学のギグで初めて会ったと言っていたらしい)。
更にドラムをミック・アンダーウッドに交代、ニューラインナップのGILLANがスタートした。
1979年6月からアルバム『ミスター・ユニヴァース』のレコーディングを開始、7月10日から3日間ロンドンのマーキー・クラブでニューラインナップでのデビューライヴ。
8月25日、第19回レディング・フェスティヴァルに出演。この時の模様の一部はBBCによって録音され「フライデーロック・ショー」で放送された。
小規模なドイツツアーの後、9月19日、ロンドンのパリス・シアターでBBC「イン・コンサート」用のライヴを行う。
この頃メンバーは当時イアン・ギランの経営していたキングスウェイ・スタジオでソロのレコーディングを行っており、バーニー・トーメはジョン・マッコイとともに録音した「All Day And All of The Night c/w What's Next」をFlesh Recordsから、マッコイ、ミック・アンダーウッド、コリン・タウンズと録音した「The Beat c/w I Want / Boney Maroney」をアイランドからリリースしている。
10月にはアイルランド、スコットランド公演を含む全23公演からなる全英ツアーを開始、10月5日シングル「Vengeance c/w Smoke On The Water (studio live)」、さらにアルバム『ミスター・ユニヴァース』がリリースされ、アルバムはUKアルバムチャートの11位にランクイン。11月中旬から12月中旬までドイツ、イタリア、フランスなどを巡るヨーロッパ・ツアーで1979年を締めくくった。開けて1980年2月に小規模なドイツ・ツアー、3月には10日間のイギリス・ツアーをおこなった。
『ミスター・ユニヴァース』をリリースしたレーベル、アクロバットが1980年初めに倒産するというアクシデントがあったが、ヴァージン・レコードと契約、3月21日にニューアルバムのレコーディングのためスタジオ入りし、5月末までレコーディングが続いた。
アルバム・リリースに先立って 6月にはシングル「Sleeping On The Job c/w Higher And Higher」をリリース(UKシングルチャート55位)、 続けてシングル「No Easy Way c/w Handles On Her Hips / I Might As Well Go Home (Mystic)」をリリース、8月にアルバム『グローリーロード』をリリース、アルバムはすぐさまUKアルバムチャートの3位にランクインした。
8月22日には第20回レディング・フェスティヴァルに出演、熱狂の模様の一部はBBC「フライデーロック・ショー」で放送された。9月24日、ロンドンのパリス・シアターでBBC「イン・コンサート」用のライヴを行い、翌9月25日からは全27公演の全英ツアーを開始、その最中10月3日にリリースされたシングルが「Trouble c/w Your Sisters On My List」で、イギリスでは7インチ・シングルとしてリリースされ、UK初回盤には1980年8月22日レディング・フェスティヴァルでのライヴ3曲を収録した「Mr. Universe / Vengeance c/w Smoke On The Water」のボーナスシングルが付属していた。
「Trouble」はエルヴィス・プレスリーが1958年にリリースしたアルバム『キング・クレオール(邦題:闇に響く声)』収録曲のカヴァー。イアン・ギランは「Trouble」をカヴァーしたことについて、“ある晩寝床で突然「Trouble」をカヴァーするってアイディアがひらめいたんだ”
“俺たちはずっとオリジナル曲をレコーディングしてきたけど、ラジオを聴く人たちに俺たちがヒット・レコードを出そうとしてるって事実を判ってもらおうと思ってカヴァー曲をやったんだ”と語っている。そして「Trouble」はGILLANのシングルとしては最高位のUKシングルチャート14位を記録した。
イアンのヴォーカルは低音からシャウトまで気持ちいいくらいにハマり、ブレイクの多いアレンジはキメの場面を作り出すが、そのブレイクの隙間に流れ込むバーニーのギターが抜群にカッコいい。このカヴァーはバーニーの弾くギターの魅力を凝縮したポップなナンバー。
シングル・リリースから随分経っているが、1981年2月18日Oxford PolytechnicでのライヴでBBC Rock Goes To Collegeで放送された映像。
日本では6インチサイズのピクチャー・レーベルのアナログ盤(12インチサイズ)をダイカット・スリーヴに入れた“ヴァージン・ピック・ラベル”シリーズの仕様で、UK盤シングル「Trouble」のボーナスシングルも含めた5曲を収録したミニ・アルバム『レディング・ライブ&モア』としてリリースされた(右上のジャケ写)。
アルバムタイトルから分かるように、日本では「Trouble」としてではなく、レディングのライヴを前面に、スタジオ録音曲はそれぞれAB面の最後に収録されている。
収録曲を記しておくと、A面には
Mr. Universe (Live)
Vengeance (Live)
Trouble
B面には
Smoke On The Water (Live)
Your Sisters On My List
10月下旬まで続いた全英ツアーは全公演ソールドアウトとなり好評を得たが、翌11月から12月にかけて敢行したバンドGILLAN初の北米ツアーは成功とはいえず、イアン・ギランにとっては楽しい思い出にはならなかったようだ。 “1980年に稼いだ金のほとんどはアメリカ・ツアーに注ぎ込んだけど、見返りは少なかった”と語っている。
アメリカから帰国したGILLANは次のアルバムのレコーディングを1月まで行い、まず2月には当時の米ソ核軍拡を歌とパッケージに込めたシングル「Mutually Assured Destruction c/w The Maelström」(UKシングルチャート32位)をリリース、 3月にはロックンロール・カヴァー第2弾「New Orleans c/w Take A Hold Of Yourself 」(UKシングルチャート17位)リリース、アルバム『フューチャー・ショック』は1981年4月にリリースされ、GILLANのアルバムとしては最高位のUKアルバムチャート2位を記録した。
さらに6月にはロックンロール・カヴァー第3弾も含む 4曲入りシングル「No Laughing In Heaven / One For The Road c/w Lucille / Bad News」(UKシングルチャート31位)をリリース、3月にイギリス・ツアー、6月にはヨーロッパ・ツアーを行ったが、6月24日イギリスに戻りTV番組トップ・オブ・ザ・ポップスに出演したGILLANにバーニー・トーメの姿は無かった…(ジョン・マッコイがベース&ギターのダブルネックを抱えていた)。
バーニー・トーメはGILLANをそのまま脱退、“GILLANではルーティンワークのように同じ演奏を毎晩繰り返すのが嫌だった”とか“「Smoke On The Water」を演奏するのが嫌だった”とか “アルバムをリリースしてツアーをすれば金は儲かったがイアン・ギランとジョン・マッコイが支配していて自分の好きなことは出来ず、ただのバック・アップ・ギタリストに過ぎない” など脱退理由を語っていたが、まぁバーニー自身のやりたい音楽をやりたいようにしたかったのが一番大きいと思う。
バーニーは自身のソロ・プロジェクト立ち上げを開始したが、そこへ緊急の連絡が。1982年3月19日にランディ・ローズを失ったオジー・オズボーン・バンドからギタリストとしての参加要請だった…。
参考文献:Bernie Tormé 『punk or what』(RETRK104:1998年)ブックレット、GILLAN 『ミスター・ユニバース』『グローリーロード』『フューチャー・ショック』1989年再発日本盤CDブックレット、『ギラン・アット・ザ・BBC』ティム・ジョセフ/山崎智之訳によるライナーノーツ、TORMÉ 『バック・トゥ・バビロン』(SP-25-5252)有島博志によるライナーノーツ