VARIOUS ARTISTS『ORK RECORDS: NEW YORK NEW YORK』
アンディ・ウォーホル一派で、映画に関する本やポスターを扱っていたシネマビリアという書店を経営していたテリー・オーク(出生名ウィリアム・テリー・コリンズ)。トム・ヴァーレインとリチャード・ヘルはその書店で働いていて、リチャード・ロイドはオーク所有の空き部屋に“住んでいた”。オークはセカンド・ギタリストを探していたヴァーレインとヘルにロイドを紹介し、練習場所として所有していたロフトを、アンプ購入やステージをやれるよう資金をバンドに提供した。ヴァーレインとヘル、そしてビリー・フィッカのネオンボーイズは、バンド名をテレヴィジョンに変え活動を開始した。
1974年3月2日、テレヴィジョンとして初のライヴを告知するチラシにはこう書かれている。
“ ウィリアム・オーク・プレゼンツ TELEVISION ”
“ ウィリアム・オーク・プレゼンツ TELEVISION ”
活動が進んでいくにつれて、一向にベース・プレイの技術が上がらないリチャード・ヘルをバンドが追い出し、ブロンディにいたフレッド・スミスが参加した。
1975年8月19日、テレヴィジョンはオーク所有のロフトで録音を行う。ジェイ・ディー・ドハーティの所有するTEAC4トラックレコーダーを使用、2時間で「Little Johnny Jewel」は録音された。この録音を7インチ・シングルとしてリリースするため、テリー・オークは自らの名前を冠したオーク・レコード(Ork Records)を設立する。
1975年9月、テレヴィジョンの7インチレコード「Little Johnny Jewel (Part 1) c/w Little Johnny Jewel (Part 2) 」をリリース。
以降、オーク・レコードのリリースは1977年まで続くが、そのリストを記すと、
1. Television:Little Johnny Jewel (Part 1) c/w Little Johnny Jewel (Part 2) :ORK81975:Sep.1975
2. Richard Hell:(I Could Live With You) (In) Another World c/w (I Belong To The) Blank Generation, You Gotta Lose :ORK81976:Nov.1976
3. Marbles:Red Light c/w Fire And Smoke:ORK81977:Jan.1977
4. Alex Chilton:Free Again, Singer Not The Song c/w Take Me Home, All Of The Time, Summertime Blues:ORK81978:Feb.1977
5. Prix:Girl, Everytime I Close My Eyes c/w Zero:ORK81979:Mar.1976
6. Mick Farren:Play With Fire c/w Lost Johnny:Ork81980:June 1977
7. Link Cromwell:Crazy Like A Fox c/w Shock Me:ORK81981:Sep.1977
8. Chris Stamey:The Summer Sun c/w Where The Fun Is:ORK81982:June 1977
1978年にオーク・レコードのリリースはなかった。この頃、他のレーベルへ行ったり、ニューヨークを離れるアーティストもいた。右上のジャケット写真にテリー・オークと一緒に写っているのは、1976年7月にオーク・レコードの社長となったチャールズ・ボール(左)だが、
No Waveムーブメントに共鳴、1978年にオーク・レコードを辞め、DNA、レディア・ランチ、マーズ等の楽曲を管理する自身の会社Lust/Unlustを設立した。
1979年にオークは、マーケティングやディストリビューションをWEAが行うWEA傘下のOrk UK Recordsとして再生、その第1弾としてテレヴジョンの「Little Johnny Jewel 」を12インチ、ペーパースリーヴに入れ再リリースした。7インチではAB面にパート1とパート2に分かれて収録されていたが12インチではA面にまとめて収録。 B面には「Little Johnny Jewel 」のライヴ・ヴァージョンが収録された。12インチ収録のライヴ・ヴァージョンは、この『ORK RECORDS:NEW YORK NEW YORK』には残念なことに収録されていない。
この再生したオーク・レコードでリリースされたのは下記で、テレヴィジョン以外は7インチ。
9. Television:Little Johnny Jewel Parts 1 & 2 c/w Little Johnny Jewel (LIve):NYC1(T):June 15,1979
10. The Idols:You c/w Girl That I Love:NYC2:June 15, 1979
11. The Revelons:The Way (You Touch My Hand) c/w 97 Tears:NYC3:June 15, 1979
12. Student Teachers:Channel 13 c/w Christmas Weather:NYC5:Oct. 1979
13. Cheetah Chrome:Still Wanna Die c/w Take Me Home:NYC5:Oct. 1979
10. The Idols:You c/w Girl That I Love:NYC2:June 15, 1979
11. The Revelons:The Way (You Touch My Hand) c/w 97 Tears:NYC3:June 15, 1979
12. Student Teachers:Channel 13 c/w Christmas Weather:NYC5:Oct. 1979
13. Cheetah Chrome:Still Wanna Die c/w Take Me Home:NYC5:Oct. 1979
さて『ORK RECORDS: NEW YORK NEW YORK』だが、私が購入したのはCD2枚を190ページのハードカバー・ブックに差し込みスリップケースに入れた仕様。CD2枚には49トラックが収録されている。
上記に紹介したオーク・レコードがリリースした1〜13のうち、1と9のテレヴィジョンについては12インチA面の「Little Johnny Jewel 」を収録している。その12インチのB面を除く、つまり2〜8および10〜13の全曲がこのCDに収録されている。その他、オーク・レコードではなく別のレーベルからリリースされた(なんらかの形でオークが関ったと思われる)、
リチャード・ロイド
レスター・バングス
ピーター・ホルサップル
アレックス・チルトン
クリス・ステイミー・アンド・dB's
ケネス・ヒニー
のシングル曲をセレクトして収録。
また、“ previously unissued ”としてブックレットに記載され収録されているのは、
ザ・フィーリーズの1977年にトロッド・ノッセル・スタジオで録音された「Fa Ce-La」、1978年にスター・リハーサルズで録音された「Forces At Work」の2曲。
ザ・イレイサーズの「It Was So Funny (The Song That They Sung) 」と「I Won't Give Up」の2曲。ともに1978年の録音でプロデュースはリチャード・ロイド。このバンドは、ハートブレイカーズのウォルター・ルアの兄弟リッチー・ルアがギタリストで在籍していた。「It Was So Funny 〜」はROIRからカセットリリースされていた『Singles: The Great New York Singles Scene』に収録されていたのと同じと思う。フィーリーズとイレイサーズはオークからシングル・リリースの具体的な計画があったようだが実現しなかった。
この他の“ previously unissued ”として収録されているのは、
プリックス(Prix)の「She Might Look My Way」、「Love You All Night Long」、「Love You Tonight」
アレックス・チルトンの「Shakin' The World」
クリス・ステイミー・アンド・dB'sの「(I Thought) You Wanted To Know」のリチャード・ロイド・ヴォーカル・ヴァージョン。
クリス・ステイミー・アンド・dB'sの「(I Thought) You Wanted To Know」のリチャード・ロイド・ヴォーカル・ヴァージョン。
ブックレットは厚く当時の写真やフライヤー、オーク自筆のメモなどが掲載されており、貴重な証言の数々…とは思うのだが、何しろ英文なので私には難解。オーク・レコードとしてはストーンズ・トリビュートLPやThe H-Bombsのシングル等いろいろとリリース計画があったようだ。結局1979年を最後にオーク・レコードはリリースを止め、テリー・オークはその後、 ノア・フォード(Noah Ford)の名前で映画雑誌の編集長をしたり、香水製造会社勤務、脱税、詐欺事件に関わったなどと伝えられているようだが、長期闘病の後、2004年10月テリー・オーク永眠。
NYパンク、アンダーグラウンド・シーンの一端を知るのに最適なオーク・レコードのコンピレーションだが、曲順がねぇ、ランダムな感じで、発売されたシングル毎にまとめ、リリース順にして欲しかったなぁ。
このCD2枚組の他、4LP仕様や、4LP+フィーリーズの7インチ付き限定仕様もある。Numeroからは7インチ16枚組のボックスセット『Ork Records COMPLETE SINGLES』もリリースされている。
Nemuro Groupのリリース・ノート
Please Kill Me HP内の
Nemuro Groupのリリース・ノート
Please Kill Me HP内の
『ORK RECORDS: NEW YORK NEW YORK』のトレイラー・ビデオ。サウンドはThe Feelies「Fa Ce-La」。
THE COMPLETE HISTORY AND RECORDINGS OF THE WORLD'S FIRST PUNK ROCK RECORD LABEL
と謳われているが、コンプリートならテレヴィジョンの12インチB面「Little Johnny Jewel (LIve)」収録してほしかったなぁ。
参考文献:レッグス・マクニール&ジリアン・マッケイン著 島田陽子訳『プリーズ・キル・ミー アメリカン・パンク・ヒストリー無修正証言集』