MUSIC MAGAZINE 増刊『パンタ/頭脳警察 反骨のメッセージと叙情が交差するロック詩人の航跡』

2024年1月17日、ミュージック・マガジンより刊行。

2023年7月に逝去したパンタの追悼本が刊行された。色々なところからパンタを追悼する書籍が刊行されるだろうと思っていたが、初めての追悼本だ。

パンタの音楽活動を1. 頭脳警察(1975年迄)、2. ソロとHAL(1989年のソロ迄)、3. 再結成頭脳警察〜2024年最新作で遺作『東京オオカミ』迄、と3つの章に分け、ヒストリー記事、その時代に録音された音盤の紹介、ミュージックマガジン誌に掲載されたパンタの過去記事再掲が主な内容。

ヒストリーとディスク評は新規に書かれ、第2章には『PANTA & HAL BOX』(2004年リリース)のブックレットに掲載された志田歩のテキスト「ドキュメント PANTA & HALの時代」に、2018年のPANTA & HAL EXTENDEDライヴの内容をエピローグとして加筆し収録している(これPANTA & HALの活動を軸にしつつ、この時代の日本ロックシーンをも炙り出していく力作)。

第1章には、頭脳警察が楽曲提供し演奏で参加した1974年の舞台「ロック・サド・イン・ジャパン」に関する田山三樹の記事を掲載、提供曲紹介など初めて知る内容で非常に興味深い。

写真は全体的にやや少なめと思うけど、1stソロ・アルバム『PANTAX'S WORLD』ジャケット写真の別カットや『唇にスパーク』ジャケット写真の別カット(小さくモノクロだけど)もあり。

ディスコグラフィは充実しており、一部シングルと編集盤や発掘音源、ビデオ作品のジャケ写がモノクロになっている他は、紹介されている音盤のジャケ写はほぼカラーで掲載。パンタが他アーティストへ提供した楽曲紹介も充実、こちらも紹介されているジャケ写はカラーで掲載されている。

再掲の記事では、やはり平岡正明の「パンタ、もとにもどれ」だろう。スウィート路線のアルバム『KISS』(1981年リリース)に対し“性愛が足りない”、“性的ボルテージを充電しろ”、と自説を展開し、このアルバムの楽曲を“パンタがパンタになる以前の青春歌謡”、陳腐な“渚と風と太陽と恋という何万遍も使われたデテールをつかって”、“これまでのパンタらしい要素なしに、初恋の過去に溺れて見せること”が、パンタが『KISS』でやりたかったことなのだろう、と7ページに渡り厳しく批判している。この時平岡が聴いた試聴カセットには作詞のクレジットはなかったのだが、全曲パンタ作と判断して自説をブチ上げた。このアルバムは歌詞を(ほぼ)外部に依頼しており、言葉選びのパンタの責任については的外れと感じるものの、全体としては鋭い分析・批評であったと思う。

事実その後おこなわれたパンタと平岡正明の対談の再掲「『KISS』大攻防戦」では、批判された歌詞についてパンタは“目を通してるし、手を加えてるし、最終的にOKしたわけだから”と自身の責任は免れないと潔く認め、シンプルで、ミーハーで、低レベルな、ウワついたポップスをマジで作りたかったんだと繰り返し説明、平岡の批判には“そのとおりでございます、ごもっとも”と語り、平岡に“分かった、これがパンタの性思想の最高水準だと思わなけれりゃいいんだろ”と納得させた。この対談もパンタの曲作りの思想性を知る上で良いテキストだと思う。

しかし追悼本でこれほど叩かれた記事を載せているのも珍しいなと思うが、その批判に対して正直に懐深く対応するパンタを読むにつけパンタの優しさと真摯さと内に秘めた音楽への熱い思いを改めて感じるのであった。

冒頭には志田歩による2024年2月5日リリース(パンタの誕生日だ)の最新作『東京オオカミ』全曲レビューあり。このアルバムへの期待は高まる。

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