和久井光司『ディランを歌う WAKUI sings DYLAN』

ボブ・ディランの曲をカヴァーする日本人アーティストは数あれど、ディランのカヴァー曲でアルバムを1枚作ったのは日本人では和久井光司だけだろう。それも全12曲が和久井自身による日本語詞だ。原曲にほぼ忠実な訳詞もあれば、原曲のエッセンスやモチーフをとらえた意訳、グッと和久井自身に引き寄せた超訳と様々な日本語詞で歌われている。2007年11月28日、ソニー・ミュージック・ダイレクトからリリースされた。

お馴染み「風に吹かれて」はリズムをレゲエに、ゲスト・ヴォーカルにパンタ、あがた森魚、中山ラビ、小室等、サエキけんぞうが参加して、なかなか豪華なオープニング・ナンバー。「メンフィス・ブルース・アゲイン」は、サビの部分が “俺のステージは まだ トラックの上でいい メンフィス・ブルーズ歌う”と訳されているのが面白い。軽快な演奏にディランのメロディの良さを再認識。

超訳といえるのが「ハリケーン」で、9.11同時多発テロの衝撃、腹黒い奴らを告発、ロックンロールとオン・ザ・ロードに生きることを歌う。“ねぇ、寝よう、ねぇ”で始まる「レイ・レディ・レイ」もユニーク。

ベスト・トラックといえるのが「ブラインド・ウィリー・マクテル」。戦前から活躍していたブルースマン、ブラインド・ウィリー・マクテルから名をとったこの曲は、アルバム『インフィデル』(1983年)のアウトテイク。『ブートレグ・シリーズVol.1〜3』(1991年)でアコースティック・ヴァージョンが初めてリリース、その後『ブートレグ・シリーズVol.16 スプリングタイム・イン・ニューヨーク』(2021年)ではバンド・ヴァージョンがリリースされた。和久井はほぼ原曲に沿った日本語詞でブルースとロックを感じさせるソリッドな演奏のカヴァーに仕上げた。サックスとギターのスリリングなソロも聴きどころ。

ラストのアコースティック・ギターとヴォーカルのみで演奏される「運命のひとひねり」もしっとりとしていい。

収録曲は下記の12曲。
 1. Blowin' In The Wind
 2. Stuck Inside of Mobile with the Memphis Blues Again
 3. The Man In Me
 4. Hurricane
 5. Jokerman
 6. Lay, Lady, Lay
 7. Mr. Tambourine Man
 8. Cold Irons Bound
 9. When The Deal Goes Down
10. Blind Willie McTell
11. Under The Red Sky
12. Simple Twist of Fate

『フリーホイーリン』、『ブロンド・オン・ブロンド』、『ストリート・リーガル』をトリビュートしたジャケット・イラストは浦沢直樹によるもの。

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