浅川マキ『black』
1991年、東芝EMI・EASTWORLDよりリリースのアルバム。 
浅川マキの『LIVE・夜のカーニバル』と『STRANGER'S TOUCH』に参加し数曲が収録されていた下山淳、池畑潤二、奈良敏博。この『black』は彼らが本格的に参加したスタジオ・アルバム。2枚組CDアルバムの1枚目で全面的に参加している。
下記はDisc 1の演奏者クレジット。
下山淳:Guitar、Piano(4)
奈良敏博:Bass、Rhythm Guitar(3)
池畑潤二:Drums、Percussion
他にBarbara Bayer:Vocal(4)、須田ヒカル:Keyboard(3)
作曲では6曲を担当。
1. 「憂愁 (II)」詩:浅川マキ 曲:下山淳
2. 「憂鬱なひとり歩き」詩:清水俊彦 曲:池畑潤二、奈良敏博、下山淳
3. 「少年 (II)」詩:浅川マキ 曲:奈良敏博、浅川マキ
4. 「FLASHDARK」詩:JOHN SOLT 日本語詩:浅川マキ 曲:下山淳
5. 「今夜は自由に眠らせてくれ」詩:清水俊彦、浅川マキ 曲:下山淳、奈良敏博、池畑潤二
6. 「blackにgood luck」詩:清水俊彦、浅川マキ 曲:奈良敏博、池畑潤二、下山淳
7. 「また、ね」詩・曲:浅川マキ
「憂愁 (II)」は、深海を漂うような浮遊感がある導入部から徐々にスピードアップ、バキッとしたリズム、淡々とだがリズミカルに詩を朗読する浅川マキに対して演奏は熱を帯びてゆく。ネオ・サイケデリック・ミーツ・ドアーズといったシャープな演奏を聴かせる12分の長尺曲で、アルバム『こぼれる黄金の砂』(1987年)に収録されていた「憂愁」とは別物。セカンドラインのリズムを強調・変容したファンキーな「憂鬱なひとり歩き」、セカンドアルバム『II』(1971年)に収録されシングルリリースもされた「少年」の再演ともいえる「少年 (II)」は重厚でブルージーな演奏で、ここではマキの歌はほぼ語りとなって、“少年はわたし わたしは少年〜”以降の歌詩が追加されている。作曲には奈良の名前がクレジットされていてリズムギターも奈良が弾いている。
John Soltの詩を取り上げた「FLASHDARK」は下山淳らしい、空間を作り出すギターフレーズが連続する演奏に、バーバラ・ベイヤーと浅川マキが詩を朗読するミステリアスなムードの楽曲。緊張感を高めるピアノは下山淳が弾いている。繰り返すリズム、ギターリフで始まる「今夜は自由に眠らせてくれ」はエッジーなギターと楽曲構成で、テレビジョン(トム・ヴァーレイン)的な激しさに高揚感と恍惚感を味わえる演奏だ。「blackにgood luck」はパンキーでヘヴィでサイケデリックな演奏にリリカルで挑戦的な浅川マキのボエトリー。”別離に言葉はない 誰に贈ろう blackにgood luck”というフレーズがかっこいい。「また、ね」は小さくミックスされたギターと浅川マキの歌のみの1分ちょっとの曲。“いくつも いくつも いくつもの階段を靴音をひびかせて 降りて行く その先には 何があるの”という歌詞には、深く深く暗い地下に潜り、眩いひとすじのライトに照らされて歌うアンダーグラウンドの女王を強烈に感じさせる。
聴きどころの多いアルバムだが、Disc 1全体的にギターの音をもう少しだけ大きくミックスして欲しかった(ルースターズ・ファンとしては…)。
Disc 2は、渋谷穀のクラシカルとも言えるピアノと本多俊之のテンダーな響きのアルトサックスの演奏による「無題」。31分にも及ぶ大作。ここでも浅川マキは、“暗黒が我々を 暗闇が我々を取り捲く blackにgood luck”とつぶやく。
