私の放浪音楽史 Vol.125 AZTEC CAMERA『KNIFE』

1984年12月21日、ワーナー・パイオニア/WEAからリリースのアルバム(イギリスでは1984年9月21日リリース)。

アズテック・カメラのスタジオアルバム第2作。プロデュースはマーク・ノップラー(ダイアー・ストレイツ)、メンバーはヴォーカル・ギターのロディ・フレイムの他、
ベース:キャンベル・オーエンス
ドラム:デイヴィッド・ラフィー
の前作と同じメンバーに、
ギター:マルコム・ロス(オレンジ・ジュース)が参加、
キーボード:ガイ・フレッチャー
というメンバーでレコーディングされた。印象的なジャケットのイラストレーションはリンダ・グレイによるもの。ロディ・フレイムはこのアルバムタイトルを「ふたつに分けるものの象徴」と語っているが、このイラストも雨の降っている/降っていない空がナイフで裂かれたように白い部分で分けられている。収録曲にも様々な分離についてが描かれているようだ。 

アルバムのオープニングはジャキジャキとしたパワフルなギターのカッティングと、心の情熱を持ち続けようと力強く歌う「Still On Fire」で、シングルとしてリリースされている。

“用心深さのしがらみを打ち破ってくれる全てのものに惹かれる
 僕らが立ち上がり、より良い日々へと抜け出そうという時に
 それでもこう言う人がいる
 貧しい状況から自由になるにはお金が必要だって
 ふーむ、それはどこかに転げ落ちた場所から見上げた時の嘘だよね

 なぜなら太陽の光が証明してくれる
 炎を絶やさぬために過ごしたすべての時間は僕たちのものだってことを
『Still On Fire』words by Roddy frame

続いて、
”僕は誘惑を称えるだろう その栄光も その末路も
 だけど僕は空回りして先に進めず、堂々巡り
 まるでUSAみたいだ”
という歌詞をポップに歌った「Just Like The USA」、しっとりとした曲調で頭脳と心の感情の分離をリリカルに描いた「Head Is Happy(Heart's Insane)」は、歌詞の“You know I'm coming. You know I'm coming. You'll feel me coming like a gun from below”にセクシャルな意味を持たせたとロディが語っていた。

アナログA面のラストは「The Back Door To Heaven」で、“天国への扉”と邦題がつけられているが、これは”天国への裏口“とするべきだろう。天国への裏口は大きく開かれていて、自分自身が決断した道を歩むことの大切さと困難さを歌っていると思われる非常にエモーショナルな曲だ。

”眠れないほどの夢から僕は目を離すことができない
 この世界は見た目通りじゃない
 僕らはそれを安売りしてきた そう教わったからだ
 日々の生活の中で迷い
 何かに従うということはとても奇妙なものだ
 それはあまりにも早く育ち 翼を得て 手に負えなくなった

 天国への裏口は僕に向かって大きく扉を開いている
 闇の苦しみに包まれて抜け出すことができずにいる時
 僕はまだ自分で決断することができるだろうか
 輪郭のないかすかな灯りの下 狂ったこの道はどこへ辿り着くのだろう

 あるいは無垢であるという価値のため
 無邪気自分自身を入れ替えるだろう
 ジェントルマンは金色のカードそして赤い赤いバラだ

 何か奇妙な錬金術みたいなもので大きく姿を変えた
 君は少し距離を置いて立って僕を指差し そのあとで僕に見えない何かを指し示す
 そしてそれは酷い虹なんだよ どうせ
 何かに従うということはとても奇妙なものだ
 それはあまりにも早く育ち 翼を得て 手に負えなくなった

 君の偽りの心は借り物の道を選んで 燃やし投げ捨てる
 明日は昨日と同じ
 それは酷い虹なんだよ どうせ”
「The Back Door To Heaven」words by Roddy frame
 
アナログではB面に移って「All I Need Is Everything」は、“大切に思ってるって行動で示してというのは僕に出て行けってことだよ”という歌詞が印象的なポップな曲でシングルカットされた。フォーキーなテイストの「Backwards And Forwards」は情感たっぷりなギターソロもいい、ジャングリーなギターの弾き語りで「The Birth of True」、ラストはタイトルトラックで9分を超える大作「Knife」。幻想的で静かにたゆたうように流れるメロディとアレンジ、ロディが「ふたつに分けるものの象徴」と語っていたナイフ。“そのナイフは僕の番号を手に入れ、君の番号も持っている ナイフは二つに分けるのがその役目 そしてそれは僕が眠っている時に使われる”とそのテーマを歌っている。

リリースされてすぐ友人に借りて聴いたが、曲調はポップになり、シンセを多用した色鮮やかで華やかなアレンジの曲もあり、長尺曲はあるものの、より聴きやすくなったなと思い、アズテック・カメラというバンドが進歩していることを感じた覚えがあるが、この後アズテック・カメラとしてのアルバムリリースは3年後になる。

『ナイフ』リリース時の帯には、
“おとぎの国のジューク・ボックス、宝石たちが奏でるモダーン・ビートに魅せられて、内気な天使もダンスした…”
“全英のギャルのハートをとりこにしたハンサム・ボーイ、ロディ・フレイム率いるアズテックの最新第2弾!メトロポリスは絶体絶命!” 
といったロディの美形をアピールするキャッチコピーやロディのポートレイト写真が使われ、そのサウンドとともにヴィジュアル面もセールスポイントだった。また、帯には初の日本公演スケジュールが記載されていた。
1985年2月22日:中野サンプラザ
   2月24日:新宿厚生年金大ホール
   2月25日:大阪四ッ橋厚生年金大ホール

このうち2月24日の新宿厚生年金会館でのライヴがFMラジオでオンエアされている。
放送されたのは下記曲目だった。
 1. Still On Fire
 2. The Back Door To Heaven
 3. Walk Out To Winter
 4. All I Need Is Everything
 5. Knife
 6. The Boy Wonders
 7. Queen's Tattoos
 8. Jump

ヴァン・ヘイレンのカヴァー「Jump」はシングル「All I Need Is Everything」のカップリング曲でこのライヴではスプリングスティーンの“ボーン・イン・ザ・USA”も叫んでいる。この時の来日はVo&G:ロディ、G:マルコム、B:キャンベル、Ds:デイヴィッドにキーボード:エディ・クラーク(Eddie Kulak)というメンバー。

参考文献:『CROSSBEAT Presents 80'sギター・ポップ・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック・エンタテイメント刊・2013年)
 

このブログの人気の投稿

私の放浪音楽史 Vol.84 1984『逆噴射家族フィルムサウンドダイジェスト』

自殺『LIVE AT 屋根裏 1979』

THE STALIN『LAST LIVE 絶賛解散中!!』