THE ROOSTERS『DIS.』

1983年10月21日、日本コロムビアよりリリースのアルバム。

1982年11月以降ライブ活動を停止していたルースターズが、来日したIggy Popのフロント・アクトで活動を再開したのが1983年6月。ミニ・アルバム『CMC』リリース、サンハウスのサポート、日本青年館でのライブを経てリリースされた4thアルバム。山梨県塩山の山中で撮影された、コンセプトを感じさせるジャケット。

反対、分離を意味する接頭語、またはローマ神話で地下世界(冥界)の神をあらわすタイトル。『Insane』発表後、さらに高速で変化していったルースターズが結実させた傑作であり、発売当時の帯に”未完の塔を見おろして、孤高のロック・バンド、ルースターズが見せる新しい姿”
と書かれていたように、その完成度は現在においても孤高の存在と言える。オリコン最高位75位。

今回の全曲解説はアナログ盤の形となっているが、現行CD(当時2000年にリリースされた紙ジャケCD・COCP-50261)はオリジナル・リリースの8曲にシングル・バージョンなど、4曲がボーナス・トラックとして追加されている。

 SIDE A :
1.  She Broke My Heart's Edge(作詩/大江慎也 作曲/花田裕之)
イントロの不安げなアルペジオ、もう1本のギターの鋭い音が重なる。暗闇に揺れる灯りの様な
フィード・バック。パンキッシュな演奏は今にしてみれば、花田の作曲とは思えないほどだ。
歌詩には、コントロール出来なくなってゆく心(と身体)が綴られている。
砕かれ、傷つき、冷たくなリ、衰弱して深い悲しみが突き刺さったままの心について、何度も訴えている。歌の間もキリキリとした音のバッキングが続くのに対し、短いギターソロでは低音を強調した繰り返しのフレーズで、心象風景をうまく表現していると思う。
作詩/大江慎也、作曲/花田裕之というクレジットはここで初めて登場。
似たような状況(大江の歌詩に花田が作曲)は他にもあったのだろうが、クレジットされたのがこの曲のみというのは意外な感じがする。

2.  I'm Swayin' In The Air(作詩・作曲/大江慎也)
前の曲とは 変わって明るいDX-7の音が印象的な曲。しかし、歌詩には不安定さや、精神的なフレーズが並ぶ。現行CD(COCP-50261)のクレジットと解説によれば、ベースを弾いているのは下山とされているが、オリジナル・アナログの歌詩カードには盤面が、Side 1、Side 2と記載されていて、メンバーのクレジットは”Jun Shimoyama: Bass(2-4)”となっており、Side-2の4曲め(つまり「Je Suis Le Vent」)で下山がベースを弾いていると判断した方が良いのではないだろうか?。ベースラインは「どうしようもない恋の唄」や「Dissatisfaction」からつながる井上ライクなものだし、弾いているのも井上だと思う。
とにかく、サウンドはベースがグルーブ感を生み出し、アコーステックな肌触り、ポップな仕上がりになっている。1度めのギターソロに被さる大江の語りは、どんな事を言っているのだろうか?2度めのギターソロでの下山のプレイも名演だ。
この曲はタイトルを短く「The Air」にして、シングルとしてアルバムと同時発売された。
   
3.  She Made Me Cry(作詩/大江慎也,M.Alexander 作曲/大江慎也)
以前から「One More Kiss」や「In Deep Grief」で関わっているM.Alexanderと大江による作詩。
”海岸沿いのバー”、”安物のジン”、”新しい恋を見つけなよ....”等の言葉が耳に残る。ロマンティックに聞こえるけれども、とても悲しい恋の終わりの歌にも聞こえる。サウンドは、アコーステックな流れを支えるベースラインが前曲に続いてカッコイイ。
繰り返しを生かしたアレンジはVelvet Underground~Lou Reedや、ルースターズの方が先だが、Echo & The Bunnymenの「The Killing Moon」を思わせる。

4.  Desire(作詩・作曲/大江慎也)
”いろいろな方向へ変わる”ルースターズの音楽性や嗜好性を表した曲、と言う訳でもないだろうが、あふれる想い、とりとめのない欲望をスカ・ビートにのせた軽快な曲。
この曲はこのアルバムの中で一番印象が薄いが、他の曲とのバランスを考えるといいポジションにあるとも言える。7インチ・シングルで発売された「The Air」のB面曲。

SIDE B :
1.  Sad Song(作詩・作曲/大江慎也)
ジョージ・オーウェルの小説”1984年”は、1982年から活動を開始したユニットのバンド名
(=1984、大江抜きのル-スタ-ズ+柏木、安藤、井島)の由来でもあるが、その1984年が目前に迫った1983年10月に発表された『DIS.』も、小説に描かれていたような暗く、寒々としたトーンが感じられる。
「Sad Song」はそんなアルバムの代表作であり、屈指の名曲だ。ギターとキーボードが絡み合う導入部、冬の嵐を予感させるようなドラムとベースのリズムで曲が始まり、荒寥とした風景と、小説の主人公ウィンストンとジューリアの関係を思わせる歌詩を歌う大江のバックでは、Televisonの「Elevation」風なアルペジオが鳴り続けている。
2番の歌詩、”真夜中にたたきおこされ~冷酷な顔が”の部分は、小説のウィンストンが統治者ビッグ・ブラザーへの憎悪を表面化させ、日記に”ビッグ・ブラザーを打倒せよ!”と無意識に書き綴ったあと、自分が間もなく思想警察によって逮捕されるであろう場面を思い描く部分から引用されている。
その1984年を迎えた1月1日、「Sad Song」は、蒼い空気に包まれた路上の3人を、車のヘッドライトが後ろから照らしているジャケットともに"Winter Version"としてシングル・リリースされた。大江のヴォーカルは、アルバムの淡々とした表情から、怒りを含んだようなものに変わり、バッキング・トラックも編集、短縮されている。
B面には「She Broke My Heart's Edge」のRemix Versionが収録された(井上のベースが前面に出た強力Remix)。
大江脱退後の花田は”やさしい風が~”の部分を、当時の自分の心境を照らし合わせたのか、”冷たい風が~”と変えて歌っていた。

2.  風の中に消えた(作詩/柴山俊之 作曲/花田裕之)
サンハウスのVo.の柴山俊之が ルースターズに書き下ろした歌詩に花田が曲をつけた。以後花田のソロまで続く、この柴山/花田の組み合わせはこの曲で始まった。後の『KAMINARI』収録の「Blue Night」やPANTAのアルバム『P.I.S.S.』に収録されている「Tambourine」に通じる、花田らしさが漂うフォーク・ロック、花田節。ハードボイルドでストイックな歌詩を花田が歌ったら、更に決まったような気がするのだが。そのかわり、花田入魂のギターソロが聴ける。

3.  夜に濡れたい(作詩/柴山俊之 作曲/井上富雄)
前曲に続き柴山の歌詩だが、作曲は井上。ディレイを効かせたギターとうねるベース、井上が担当したシンセサイザーが織りなすダークな音のベールに、前曲とは反対に官能的な歌詩が絡みつく。
インタビューで井上は、聴いているのはキャバレー・ボルテールとか環境音楽のみとかと答えていたから、出来上がったものは他の曲とはいい感じで違い、浮き上がっている。
ただ、作詩者の柴山は、この2曲をあまり気に入っていなかったようだ。
  
4.  Je Suis Le Vent(作詩/ヒロ・スグル,M.Alexander 作曲/花田裕之、下山淳)  
鳥のさえずり、キーボードが奏でる霞の中、小さな女の子がママを呼ぶ声(”私とても眠い....”と言っている様に聞こえる)。フランス語で書かれたタイトル・歌詩は、日本語にするのは難しいが”僕は風...”となるのだろうか。1984年10月にリリースされたビデオ『Paranoiac Live』の歌詩カードには作詩者が”マリア・アレクサンダー”とクレジットされている。
最初に手にした楽器がベースだったという下山が弾くベースに続いて、霞を晴らすかの様にゆるやかなギターが響く。 
スネアが打ち鳴らされた瞬間、目に浮かぶ景色、そしてこの冷たく暗いトーンに満ちたアルバムは、暖かい光りに包まれるように感じられる.....が、実は魂を奪われ、抜け殻になってしまった者へのレクイエムなのかも知れない。


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