石井聰亙&バチラス・アーミー・プロジェクト『アジアの逆襲』
映画監督、石井聰亙。
『狂い咲きサンダーロード』では、泉谷しげる、THE MODS、PANTA & HALの楽曲を、 『シャッフル』ではヒカシューを音楽に起用。そして『爆裂都市』は言うまでも無く、 大江慎也、池畑潤二をフューチャーしたロック・ムービーだった。
その石井聰亙が1982年9月、ギターには後にルースターズに参加する下山淳、 ベースにはヤンジ、ドラムには郷森信宏というメンバーでバチラス・アーミー・プロジェクトを結成。
新宿ロフト等でライブを重ね、1983年9月21日にルースターズのメンバー花田、井上、池畑が参加したLP『アジアの逆襲』 をリリースした。
新宿ロフト等でライブを重ね、1983年9月21日にルースターズのメンバー花田、井上、池畑が参加したLP『アジアの逆襲』 をリリースした。
このころ石井は、ルースターズはもちろん、スターリンやINU、スロッピング・グリッスル等にも影響を受けていたようだ。 このアルバムもパンキッシュ、アバンギャルドな面も合わせ持った音づくりとなっている。 石井のボーカルはこの演奏に合っていて、意外と言っては失礼だがいい感じだ。
歌詞は全て石井の作詞。泉谷しげるの世界を思わせる「Backstreet Gangstars」の他は、呪文のように繰り返しの多い 歌詞だが、右傾化を揶揄するような「機能障害」、念仏(?)を唱える「アジアの逆襲」、 「人間以上」などには印象的な言葉が使われている。
インストルメンタルの曲もあり、安藤広一がキーボードを担当した。
以下、作曲者とレコーディング・メンバーを紹介。 なお全てのボーカル、特記以外の全作詞は石井聰亙、全編曲はバチラス・アーミー・プロジェクト。
SIDE A :
ASIA-SIDE
1. アジアの壊滅
作曲/バチラス・アーミー・プロジェクト
ナレーション:小林克也
Synth:安藤広一
2. 機能障害
作詞/石井聰亙・福屋芝美、作曲/ヤンジ
Guitar:下山淳
Bass:ヤンジ
Drums:郷森信宏
Vocal:小林克也
3. Be Blood My Beat
作曲/バチラス・アーミー・プロジェクト
Guitar:下山淳
Bass:ヤンジ
Drums:郷森信宏
4. Go Street, Do Fight
作曲/バチラス・アーミー・プロジェクト
Guitar:下山淳
Guitar:花田裕之
Bass:井上富雄
Drums, Percussion:池畑潤二
Voice:柴山俊之
Cho:バチラス・アーミー・プロジェクト
5. アジアの怒り(White Blood Man)
作曲/バチラス・アーミー・プロジェクト
Guitar:下山淳
Drums, Percussion:池畑潤二
Voice:柏木省三
6. アジアの逆襲
作曲/バチラス・アーミー・プロジェクト
Guitar:下山淳
Bass:井上富雄
Drums, Percussion:池畑潤二
Voices:バチラス・アーミー・プロジェクト
7. 人間以上
作曲/井上富雄
Guitar:下山淳
Guitar:花田裕之
Bass:井上富雄
Drums, Percussion:池畑潤二
Keyboards:安藤広一
Voice:柴山俊之
SIDE B :
JAPAN SIDE
1. Backstreet Gangstars~Battle The City
作曲/花田裕之
Guitar:下山淳
Guitar:花田裕之
Bass:井上富雄
Drums:池畑潤二
Vocal:柴山俊之
2. ザ・ビタミン・バイブル
作詞/石井聰互・中井御夏子、作曲/ヤンジ
Guitar:下山淳
Bass:ヤンジ
Drums:郷森信宏
3. 連鎖反応
作曲/ヤンジ
Guitar:下山淳
Bass:ヤンジ
Drums:郷森信宏
4. 情性欠如
作曲/ヤンジ
Guitar:下山淳
Guitar:花田裕之
Bass:井上富雄
Drums:池畑潤二
Keyboards:安藤広一
5. タントラ
作曲・編曲/柏木省三・安藤広一
Keyboards:安藤広一
下山はパンキッシュなコード・カッティングが主体でルースターズのアルバムで聴けるような、 メロディアスな面は影を潜めている(どうやら石井の要望らしい)。
ルースターズのメンバーが参加している曲を簡単に紹介すると、A-4「Go Street, Do Fight」は、このメンツ で演奏しなくても良いのではと思ってしまう、30秒の短い曲。A-5「 アジアの怒り(White Blood Man)」は、 1984を思わせるサイキックなナンバー。A-6「アジアの逆襲」は念仏に鋭い音色の下山のギターが絡む。
続くA-7「人間以上」はこのアルバムの白眉だろう。井上の作曲、 池畑のパーカッシブなドラム、コーラスを利かせた二本のギターのカッティング、もちろん井上のベースもかっこいい。
アメリカのSF作家シオドア・スタージョンの「人間以上」(原題:More Than Human)は、さまざまな特殊能力を 持った少年少女が集り、彼等が全員でひとつの生命体となった=ゲシュタルト生命を描いた小説だが、石井の歌詞は この小説をモチーフにして書かれているのだろう。曲の後半、空間的な広がりを持ったアレンジに変わり、 ”More Than Human”とリフレインされる。この展開をもう少し押し進め、プログレッシブ・ロック的な方法で曲を 完成させたら面白かったのでは、と思うし、 その方が映像クリエイターらしいような気が今となっては思うのだが。
B-1「Backstreet Gangstars~Battle The City」は花田が作曲のブギ。ボーカルに柴山俊之も参加して、サンハウス的な音になっている。 B-4「情性欠如」断片的な言葉がならぶアバンギャルドな曲。
1ヶ月後の10月21日には同名のビデオが発売されており(未見)、それを見るとまた印象の違うものになるのかも知れない。 ただ、このジャケットはいただけないと思う。