J・G・バラード著・飯田隆昭訳『ウォー・フィーバー・戦争熱』

ベイルートで戦う若き兵士ライアンは、果てしなく続く内戦に疑問を持っていた。
王党派、キリスト教徒軍、共和派、国家主義派、原理主義者....誰もがもはや信じるものの為に戦ってはいない。 ただ、繰り返される残虐行為、裏切り、報復、そして過去から持ち越され、 自分たちさえ持ち堪えられないほど肥大してゆく、憎悪の為に戦闘は続いているのではないかと。 駐留している国連平和維持軍でさえ、どちらかに荷担することなく食料を供給し、負傷者の手当てをし、遺族には金を支給し、 密輸入される武器、弾薬には目をつぶっている。 なぜ誰も平和を求めないのだろうかと。

停戦という夢に取り付かれたライアンは、自分の仲間にその夢を語り始めた。 カフェでのコーヒー、街をぶらぶらし、ディスコで踊る.....そんな他の国ではあたりまえだろうと思われる、 平和な暮らしを語った。 ある日ライアンがたまたま見つけた国連軍のブルーのヘルメットを、 自分のヘルメットの代わりに被ったことをきっかけに休戦~停戦への波紋が広がっていった。

銃声は止み、争っていた兵士たちは国連軍から支給されたブルーのヘルメットやベレー帽、ユニフォームを身に付け、 武装を解いて街角で語り合っていた。商店が開き、子供たちは外に出て遊んでいる。 ひびの入った窓ガラスには共和派と国家主義派が銃ではなく、サッカーの試合で対戦をするという告知ポスターが貼ってある。
ベイルートには停戦が定着しつつあった。
しかし、その全てがコントロールされたものだったとは......。

ライアン達が平和な風景を喜び、語り合っていた時、突如爆弾が炸裂し街は再び戦闘が始った。 ブルーのヘルメット、ベレー帽はどぶに捨てられた。 ライアンは自分の家族が他の党派に人質として連れ去られたことを知るが、彼自身は国連の基地に連行され、 ベイルート内戦について驚愕の真実を聞かされるのだった。
そして悲しい結末、ライアンのベイルートに平和を求める願いは世界へと向けられた.....。

以上がJ・G・バラ-ドの短編集『ウォー・フィーバー』の表題作のあらすじだが、 鋭い切り口で憎悪と戦争、友愛と平和が文章化され、 日本語にしてわずか34ページの中にそれらを発芽される種子、 いや発病させる病原体の正体が織り込まれていると思う。

この他、大量に垂れ流される大統領の病状のニュースにより、第三次世界大戦が始ったことに気付かない国全体に 当惑する医師を描く「第三次世界大戦秘話」、愛情を政府にコントロールされた世界を描く「エイズ時代の愛」、 孤独と隔絶が心の内部に虚像を創りあげて行く「月の上を歩いた男」、 止まりゆく時間の描写が素晴しい「宇宙時代の記憶」などシニカルでユーモラスで刺激的な短編を14編収録。

原題 : War Fever
著者 : J. G. Ballard
訳者 : 飯田隆昭
出版 : ベネッセ/福武書店
日本版発行 : 1992年1月 

*この本は当時図書館で借りて読んだ為画像はありません*

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