SONIC YOUTH「SUPERSTAR」

1994年(JPN)リリースのトリビュート・アルバム『if I were a Carpenter』より。

デビッド・リンチの描くアメリカの郊外の風景。
青い空、緑の芝生、太陽の光、区画整理された道に並ぶ家、車、白く塗られたフェンス、色どる花。夜、街灯の光が届かない暗闇、住宅地に近い森、川や湖、木々を揺らす風、懐中電灯、ヘッドライト。映し出される風景は、たとえ雨や霧の中でもどこか渇いた映像だ。そして、そこで暮らす人々の光と暗闇を描いてゆく。それは幸せや愛を求める姿であり、それゆえに受け取る不幸や恐怖である。

中流家庭に生まれたカーペンター兄妹が結成したカーペンターズは、1969年にデビュー、翌70年にはシングル「遥かなる影(Close To You)」で全米1位。以後次々とヒット曲、ヒット・アルバムを送り出した。そして、広く大衆に受け入れられやすいサウンドと恋や希望、夢が歌われた歌詩は、中流家庭を代表する“明るく、清潔で安全なポップス”というイメージが作り上げられていった。しかし、その裏ではパブリック・イメージの維持と反発、人気の陰りとレコード・セールスの下降、カレンの食欲障害、母親との葛藤、兄リチャードの睡眠薬依存、という”影”の部分が広がり、79年には活動を停止、81年に再開するも、83年にカレンが拒食症で急死するという悲劇によりグループの活動に終止符を打った。

Sonic Youthの演奏する「Superstar」は、“明るく、清潔で安全”というイメージの裏側にあった悲しみ、痛み、不信、恐怖をディストーション・ギターで拡大したバージョンだ。スローモーションで水滴が落ちてゆくのを音に置き換えたような、イントロのアコースティック・ギターとドラムのリズム。深い闇の底で鳴っているようなノイズ・ギターと時々表面にあらわれてくるねじれたフレーズ。このバージョンは、デビッド・リンチの日常が潜在的に悲劇をはらみ、突然吹き出す狂気を描き出した映画に似て、とても衝撃的だ。

この曲を収録しているのは、カーペンターズをトリビュートした『if I were a Carpenter』というタイトルで、Sonic Youthの他、クランベリーズやシェリル・クロウ、少年ナイフ等が参加している。いずれも名カバー揃いで、各アーティスト達の身体にはカーペンターズの曲が染み込んでいるんだなぁと思わせる仕上がり。数あるトリビュ-ト盤のなかでも秀逸の1枚。

オリジナル・アーティストはリタ・クーリッジ。カーペンターズのリチャードはベッド・ミドラーが歌っているのをTVで見てレコーディングを決め、アメリカでは1971年8月12日にシングル・リリースされた。同年発売のアルバム『Carpenters(邦題:スーパースター)』にも収録されている。シングルは全米2位のヒットとなった。それゆえ現在発売されている、ほとんどのベスト盤、グレイテスト・ヒッツで聞ける事と思う。

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