TOM VERLAINE『WORDS FROM THE FRONT』

1982年、ヴァージンよりリリース (JPN)のアルバム。

ロック史上に燦然と輝く名盤『Marquee Moon』を作り上げたバンドTelevison、そのフロントマン、ヴォーカリストで ギタリストのトム・ヴァーレイン。
10代にジョン・コルトレーンの影響を受け、サックスでジャズを演奏していたが、 ローリング・ストーンズを聴いてギターを手にしたという。弦の響きを活かし、独創的なフレージング (どこか調子の外れたところも)が魅力的なギタリストだ。 『Marquee Moon』は80年代のニューウェーブのバンド/ギタリストに多大な影響をあたえたことは間違いない。

ヴァ-レインのソロ・アルバムとなると、ソロになって3作目にあたる『Words From The Front』を代表作に選ぶ。 深い緑色をバックに紫色のシャツを着たヴァーレインが煙草をくゆらせるイラストが描かれた リラックスした雰囲気のジャケット。しかし、 右上にはアルバムタイトル“最前線からの手紙(Words From The Front)”の文字。
前作『Dreamtime(邦題:夢時間)』よりもシンプルで繊細な楽曲が並ぶ。 レコーディング・メンバーはテレビジョン時代の旧友、Fred Smith (Bass)、 パティ・スミス・グループのJay Dee Daugherty (Drums)、 Jimmy Ripp (Guitar)、前作とこのアルバムの発表の間にアメリカやヨーロッパをまわるツアーを行ない、 そのツアーメンバーもレコーディングに参加している。

アルバムはワン・コードで頑なに繰り返すギターリフにのって真実の愛を歌う「Present Arrived」で始る。 痙攣気味のボーカルとリフの間に挟み込まれたギターフレーズと、 ニューヨーク・ロックの雄、Mink Devilleのリズム隊が叩き出す、 身体のみならず脳に響いてくる立ち上がったリズムが印象的な曲だ。
続く「Postcard From Waterloo」はトレモロがかったギターのイントロと転調部分のピアノが美しいバラード。 この曲は先行シングルで「Postcard From Waterloo c/w Days On The Mountain」としてリリースされた。 ギターソロ部分のコード進行も絶妙。ヴァーレインのポップ感覚を上手く昇華した名曲。
簡素さと流麗さが入り交じった「True Story」、 Fred Smithのベースと、パティ・スミス・グル-プのJay Dee Daughertyのドラムをバックに、 はびこる悪習や悪運を”片付けちまえ!”と歌われるシンプルだが先鋭的な「Clear It Away」と続いて アナログではA面が終わる。

まるで重装備の歩兵が疲れ果てて歩いているかのような、 ”ガシャン、ガシャン”というイントロのギターで始る、アルバム・タイトル曲「Words From The Front」。 長く、泥沼の戦闘が続く戦線の”ある1日”を切り取った歌詞が秀逸な出来栄えだ。 兵士の深い絶望と、生まれた国へ、我が家に帰ることへの渇望が見事に表現された名曲。 この曲でのギターソロはテレビジョンのアルバム以来の緊張感と表現力を持っていると思う。後半のソロでは、 雨の中を突撃して行く兵士達が目に浮かぶようだ。個人的にはヴァーレインのソロの作品の中で1番好きな曲。

急き立てられるようなギターリフの「Coming Apart」(ギターソロの入り方がかっこいい)をはさんで B面の約半分を占める「Days On The Mountain」へ。単調なドラムとベースのリズムに、 全編にわたってヴァーレインは即興的なギターを弾いている(この辺にコルトレーンの影響が伺えるかも)。
ヴァーレインは、沢山の蛇口よりも、岩山に染み出る水を僕達は尊ぶべきなんだと、 必要以上にあふれた物や情報に磨耗した気持ちを描く。 山の上での生活を覚えている...と歌い、曲はギター・オ-ケストレイションの壮大な響きに変わってゆき、 美しい幾つもの弦の響きでアルバムは幕を閉じる。

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