THE ROOSTERS 『ニュールンベルグでささやいて』
1982年11月21日、Shan-Shanよりリリースの12インチ・シングル。
たった1日で音録り、ミックスダウンまで全てを終らせるという予定で行われた1982年9月末のレコーディング。 ファースト・テイク重視という思い切りの良さで、いままでライブで練り上げてきたアレンジ、フレーズを盤に刻み込む。
少し前、7月4日に行われた東京千代田公会堂のワンマン・コンサート”Let's Rock”では、 既にこのセッションから5曲が演奏されていた。 このコンサートの為に5月末から週10時間のリハーサルを続けられていたというし、録音の数カ月前からライブのセットに組み込んできていたので、 新曲を短時間でしかも曲の持つ最良の部分を引き出して録音することにはかなり自信があったのだろう。
たった1日で音録り、ミックスダウンまで全てを終らせるという予定で行われた1982年9月末のレコーディング。 ファースト・テイク重視という思い切りの良さで、いままでライブで練り上げてきたアレンジ、フレーズを盤に刻み込む。
少し前、7月4日に行われた東京千代田公会堂のワンマン・コンサート”Let's Rock”では、 既にこのセッションから5曲が演奏されていた。 このコンサートの為に5月末から週10時間のリハーサルを続けられていたというし、録音の数カ月前からライブのセットに組み込んできていたので、 新曲を短時間でしかも曲の持つ最良の部分を引き出して録音することにはかなり自信があったのだろう。
機材的にもワンギター、ワンアンプで、大江はフェンダー・リードII+VOXアンプ、花田はフェンダー・ストラト+HIWATTアンプ、 井上はフェンダー・ジャズベース+ACOUSTICアンプの組み合わせのみ。池畑はドラムセットにゴング・バスを加えている。 実際には大江が体調不良のためレコーディングは中断となり、10月に入ってダビング、ボーカル・トラックの録音とミックスダウンが行われ、 計4日間をかけた。このレコーディング・セッションで録音された曲は、
"ニュールンベルグでささやいて"
"撃沈魚雷"
"バリウム・ピルス"
"ロージー"
"サマー、サマー、サマー"(巡航ミサイル・キャリア=C.M.C)
"ニュー・カレドニア"
"ゴミ"
"ゴー・ファック"
の8曲。
"ニュールンベルグ"から"ロージー"までの4曲が、45回転30cmミニ・アルバム『ニュールンベルグでささやいて』として1982年11月21日に日本コロムビアのShan-Shanレーベルからリリースされた。
SIDE A :
1. ニュールンベルグでささやいて(作詩/大江慎也・中原聡子 作曲/ザ・ルースターズ)
13歳で麻薬中毒、薬を買う金に困り14歳で娼婦となったベルリンの少女Christiane F.の記録 『かなしみのクリスチアーネ・われら動物園駅の子どもたち』を原作とした映画『クリスチーネ・F』( 1981年、西ドイツ映画) や冷戦下、東西に分断されていた当時のベルリンの写真集などからインスパイアされたという、 パーカシブでファンク色が強いナンバー。これまでのルースターズから容易には想像がつかない曲で、 針を下ろした瞬間の驚きは今も覚えている。
歌われている内容は「世界各地で同時発生する10代の反乱の歌」ということだが、 前半の歌詩にはChristiane F.の世界に通じる言葉も多い。 そこでは、フィクサー=ヘロイン中毒者を意味している(Turkish fixers)。 Turkishはトルコのとかトルコ人の、という意味だが、turkeyはヘロインの禁断症状のことだ。 もっともトルコ人やアラビア人の売人、中毒者も登場するが...。 ドイツ語で歌われる「金はあるかい?」というヘロイン取引とおぼしき会話、 売春にはかつらを使用するし(Fake blonde girl)、彼女の恋人は男娼で、彼女や彼らはメルセデスなどの車に乗る男を客にしている。
発売当時の広告には日本語に訳されたこの曲の歌詩が印刷されていた(一部伏せ字)。 リリース前のライブでは”ニュールンベルグ”を”ウエスト・ベルリン”と歌っていたこともあった。
イントロのサックスのフレーズがピッグバッグ(PIGBAG)の1981年リリースのシングル「Papa's Got Brand New Pigbag」 のベースラインとサックスのフレーズに似ているのは御存じの通り。 ピッグバッグはザ・ポップ・グループのベーシストだったSimon Underwoodが参加して結成されたイギリスのグループで、 ルースターズのメンバーも気に入っていたらしい(なおザ・ポップ・グループは1979年に『Y(最後の警告)』をリリース、 同時代のロック・アーティストに多大な影響と危機感をあたえた。彼等のパンクでアヴァンギャルドでファンクな楽曲は衝撃的だった)。
この時期ルースターズは別ユニットで1984という名前でも活動をしていたが、このユニットに参加していた井島和男がサックスを、 安藤広一がキーボードを演奏している。コーラスをかけた花田のギター、ギターハーモニクス、1984の活動を通じて発展していった 「持ち味のヤバンなビート」を叩き出すリズム隊の二人。 イントロで聴くことのできるマラカスやブレイク後の華やかだが緊張感のある演奏などなど、 全てのパートが非のうち所無し(このレコード全曲に言えるけど)。
2. 撃沈魚雷(作詩/大江慎也 作曲/ザ・ルースターズ)
曲が始まった瞬間、分厚いサウンドに圧倒される。ゴング・バス(バスドラと同じくらいの大きさのタム)を使用したボ・ビートは強力。 花田のギターカッティングや井上のベースラインも工夫されていて、まさに新型のボ・ディドリーだ。花田のギターソロもウィルコ・ジョンソンばりにカキコキとしていてかっこいい。 歌詩の内容はリリースされた年の5月に起きたフォークランド紛争の映像をも連想させた。
SIDE B :
1. バリウム・ピルス(作詩/大江慎也 作曲/ザ・ルースターズ)
こちらはジョン・リー・フッカーを思わせるブギ。飛び交うキーボードの音がサイケ度を増大。 当初はベースラインと同じフレーズをギターでも弾いているアレンジだった(ネオロカ調)が、 1977年にリリースされたMink Devilleのファーストアルバム収録曲「Cadillac Walk」 を思わせるリフを刻むアレンジに変更された。 クールなバッキングはサビのカッティングで爆発する。
大江の実体験を描いたような、淡々と病状や診察内容を綴る歌詩だが、 当初は”脳動脈硬化症の歌”と紹介され、歌詩にもこの病名が入っていた。
2. ロージー(作詩/大江慎也 作曲/ザ・ルースターズ)
ファースト・アルバム収録の再録だが、もともとがスローなアレンジだったのは1999年にリリースされた『I'm A King Bee』でも証明済み。 リバーブの効いたカッティングや、ディレイのかかったダビィなヴォーカル、ドラムが空虚感を印象づける。 ギターソロのときはスネア叩かず、ハイハットを打つリズムが変化するところなど、池畑のドラムも工夫されていて楽しめる。
アナログ盤でリリースされた時の”クスリに酔いしれる”という表現をレコード会社が自主規制したのか、 1987年にCD化された時には”ただただ酔いしれる”と歌うボーカルと差し換えられていた(『ファースト』の「ロージー」も)。
2000年の紙ジャケCDでは”クスリ”に戻されている。 また、フェイドアウトしていたエンディングは87年CD化の際に演奏終了まで収録された。
この曲も薬に依存している女性をテーマとしている点では「ニュールンベルグ」に通じるか。
アナログ盤の裏ジャケットには山名昇によるライナーがあり、”この12インチ45rpm盤の後、彼等は既に80年代最大のプロテスト・ソングを用意している。 さりげなく、待ちたまえ”と書かれており、それが1982年12月号の「Player」誌のやはり山名昇の記事によれば「ゴー・ファック」ということになるのだが、 リリースされておらず、現在まで未発表のままだ。
このミディアム・スローなバラードは、英語詩で歌われていた時と日本語詩で歌われていた時があり、日本語詩では使われているセクシャルな表現に驚く。 英語詩を聴くとポリティカルな内容にも聞こえるが(聴き取りだけなので確かではない)。
いずれにせよ、「Player」誌の記事によればスタジオで録音され、完成したのは間違いないのだから早期の発表を切に願う。マスターが残っていればだが。