中込智子監修『ジャパニーズ・オルタナティブ・ロック特選ガイド』
日本のオルタナティヴ・ロックの本というと、ミュージックマガジン社から出ていた『NU SENSATIONS -日本のオルタナティヴ・ロック 1978-1998』が重宝していたが、現在は2010年、1999年から現在までのバンド/ディスクで良いものに出会いたいと思っていたところに、CDジャーナル・ムックから出版されたのがこの「ジャパニーズ・オルタナティヴ・ロック特選ガイド」。
年代は5つに区切られていて、各章にはキーマンへのインタビューや対談があり、また、その年代のトピックなアーティスト、バンド、イベント等が 1ページまたは2ページ分の記事として紹介され、ディスク・ガイドがあるという構成。以下各章の年代分けとインタビューについてを紹介。
第一章は1979年~1985年。ここでは遠藤ミチロウのインタビューがあり、自らのサウンドの変遷やインディ/メジャー に対する考え方について等が語られている。
第二章は1986年~1990年。ラフィン・ノーズのチャーミーへのインタビュー。古くからのファンは知っている内容なのかもしれないが、バンド結成以前からラフィンの盛衰、再開後について語られていて興味深い内容。
第三章は1991年~1995年。インタビューはビヨンズの谷口健。ハードコアに惹かれるムード、そして自身のサウンドとしてのハードコア後について等が語られている。
第四章は1996年~2000年。ここではブラフマンのTOSHI-LOW、バックドロップ・ボムのSHIRAKAWA、フロンティア・バックヤードのTAGAMIの対談。 “ロックに、バンドに救われたっていう世代でいえば、俺達が最後の世代なんじゃないか”というTOSHI-LOWの言葉が印象深い。インタビューはPIZZA OF DEATHレコーズのスタッフDA。アメリカの大学のミュージック・ビジネス科に進んだDAがハイスタと出会い、 PIZZA OF DEATHで勤め始めるまでの経緯や、プロモーションなどの仕事について語っている。
第五章は2001年~2010年。インタビューはバンド・アパートの荒井岳史と原昌和。意外性を追求する彼らの意欲に注目。
遠藤ミチロウとDA以外はインタビューを監修者の中込智子がおこなっており(対談も)、リアルタイムで現場を見て、音源を聴いてきた者ならではの視点、論点で語られているのがとても良い印象だ。中込にはハードコア/パンクを、闇を抱える者にとって必要な音楽であるという一貫した思想があり、それが演奏者やライブに集まる人々への 愛情になっているようだ。
ディスク・ガイドでは、まだまだ聴いた事のない音源が本当に沢山あり、どれをチョイスして聴いていこうかという楽しみがある。残念なのは索引が無い事。この手の本には必要(各章あいうえお順に並んでいるので、5章分探せば良いんだけど)。あとひとつはコンピレーション/オムニバス盤が7枚しか無い事。オリジナル・アルバムは基本だけど、パンクの場合コンピ/オムニバスは枚数あると思うので、各年代2~3枚選んでも良かったのでは。 1986年~1995年からは一枚も無い。
それにしても、インタビュー、トピック、400枚のディスクガイドは読み応えがあり、パラパラとディスクガイドを眺めているだけでも (CDラックを見ているみたいで)楽しいものだし、いつも手元に置いておきたい本である。オルタナティヴ・ディスク・ガイドとしては若干ハードコア寄りと思うが、 これまでに無い力作と言いたい。