OMNIBUS a Go Go Vol.55『MAX'S KANSAS CITY 1976』

1976年にRAMレコードからリリースされたオムニバス。ニューヨークシティのユニオンスクエア南端にあったライブハウスMax's Kansas City。当時の常連アーティストを集め、ライブではなくスタジオ録音が収録されている。

日本盤アナログはキングレコードから1977年3月に発売され、ライナーノーツには水上はるこの解説が載っていて当時のマクシスやニューヨークのアンダーグラウンドシーンを垣間見せてくれるので少し引用する。

“ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのライヴ・アルバムのジャケット写真でみたことがある看板が出ている。1階はガラス張りのレストラン・バーだ。出される料理はおせじにもおいしいとはいえず、お値段の方もなかなかのレストランだが、常に満員の盛況なのは、ここがニューヨークの前衛的急進的文化人のサロンとして利用されているからだろう ”

“2階は客席150という小さなライブ・スポットだ。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドもまた、ここから巣立った。一週間のうち、3日ずつくらいバンドが出演する。ジャニス・イアンもエアロスミスも、ニューヨーク・ドールズも、その最初はマクシス・カンサス・シティからはじまった。CBGB→マクシス・カンサス・シティ→ボトム・ライン →アカデミー・オブ・ミュージック(パラディウム)→マジソン・スクエア・ガーデンというのが、ニューヨーク周辺のロック・バンドの出世コースである ”

“マクシス・カンサス・シティは、経営者交代による閉鎖というブランクをのりこえて、74年末、復活した。ウェイン・カウンティが例の女装でDJをするというのも評判を呼び、ニューヨークの夜のサロンがよみがえった。2階のクラブには、パンク・グループが出演しはじめた ”

ジャケットはボブ・クルーエンによるモノクロ写真でマクシスの前にずらり並んだ収録バンドのメンバー達。やはりウエィン・カウンティが目立つ。ジャケ裏はマクシスの入り口からビルを囲うようにならぶ観客達が写しだされている。収録されているアーティストは、
WAYNE COUNTY and The Back Street Boys
THE FAST
HARRY TOLEDO
PERE UBU
CHERRY VANILLA and Her Saten Island Band
THE JOHN COLLINS BAND
SUICIDE
の7バンド。

このアルバムのタイトルトラックともいえるウエイン・カウンティの「Max's Kansas City 1976」は、このアルバムに参加しているバンド達やマクシスゆかりのアーティスト、ルー・リード、ニューヨーク・ドールズ、イギー・ポップ、パティ・スミス、ラモーンズ、ブロンディ、ハートブレイカーズ等々が歌いこまれたマクシス賛歌。ルー・リードに捧げられたナンバーでもある。先に紹介したコンピ『I WAS PUNK BEFORE YOU』にも同曲のシングル・バージョン(ショート・バージョン)が収録されていたが、こちらは5分38秒の完全版。ウエイン・カウンティは他に1分半の軽快なロックンロールでセクシャルなイメージの「Cream In My Jeans」 (ギターのチューニングがちょっと甘い気がするけど)、ユニークかつクレイジーなニューヨークを歌う「Flip Your Wig」の計3曲を収録。

後にジョン・ケイルのプロデュースでスパイからシングルをリリースするハリー・トレドは、テレビジョンに通じるサウンドを聴かせる「Knots」、ペル・ユビュ「Final Solution」は自主制作セカンドシングルにもなった、クールかつエモーショナルでマシナリーな曲。ナチスの対ユダヤ人政策“最終的解決”をタイトルにしたことからナチズムとの関係が物議を呼んだらしいが、歌詞からは異性や親に対する違和感と対立を“ギターサウンドで破壊する”といった内容に思える(私の英語読解力では怪しいが...)。

スーサイド「Rocket U.S.A.」はマーティン(インナーの表記はMarty Suicide)のエレクトロニクスに、アラン(表記はAlan Suicide)の冷気を帯びたボーカルが奇妙な音像を作り上げる。まるで霊界でプレスリーが歌っているようだ。後のファーストアルバムにも再録された曲。ウエィン・カウンティを除けばこの3曲が聴きどころか。

他、THE FASTはキーボートがニュー・ウエイヴィーな「Boys Will Be Boys」、展開がおもしろい「Wow Pow Bash Crash(A Rock Opera In 3:15)」の2曲。チェリー・ヴァニラ「Shake Your Ahes」はグラムっぽい仕上がり。THE JOHN COLLINS BANDは「The Man In Me」が収録されている。

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