『THE DIG Special Edition THE CLASH featuring JOE STRUMMER』
これもジョー・ストラマー没後10年という節目で2012年12月19日発売となったムック。発行はシンコーミュージック。雑誌THE DIGの増刊というかたちだ。THE DIGはクラッシュ、ジョー・ストラマー関連ではジョー訃報時、シングルボックス発売時に続き3冊目のムックとなる。 今回はDVD『THE RISE AND FALL OF THE CLASH』にあわせて、ミック脱退後の5人組クラッシュに焦点をあててもいて、当時のインタビュー再掲載もあり。
個人的にこの頃のクラッシュについて思い出してみると、
トッパー・ヒードン、続いてミック・ジョーンズとバンドを追い出した事(もちろん当時は詳しい事情は知らなかったが)には非常に驚き、5人組になったニュースは聞いたものの、この5人組クラッシュの情報はほとんど無く、やがて発売されたアルバム『カット・ザ・クラップ』は聴いたが、そのサウンドにはがっかりしたというか、もはやこれまでというあきらめのような気持ちを持った事を憶えている。12インチでリリースされた「This Is England」のカップリングに収録されていた、 ロカビリースタイルの「Sex Mad Roar」が気に入ったくらいだった。シングルの大貫憲章のライナーノーツも新生クラッシュのサウンドに懐疑的だった。なので、なんの思い入れもなく5人組クラッシュは無かった事になっていたのだが…。
いつ頃だろうか、かなり後に『GIVE 'EM ENOUGH DOPE』というブートCDを入手、ミック在籍時の来日公演のライブと5人組クラッシュの1984年5月アメリカ公演のライブを収録したもので、アメリカ公演のトラックでは、『カット・ザ・クラップ』にも収録されていた「Are Your Ready For War?」や「Three Card Trick」、12インチの「Sex Mad Roar」、未発表曲の「In The Pouring Rain」(後に『The Future Is Unwritten』に収録)を聴く事が出来、印象は『カット・ザ・クラップ』とは大きく異なるものだった。オーヴァードライブしたギター2本のサウンドと豪快でパワフルなピートのドラミングは、クラッシュのセカンド・アルバム『動乱』に似てハードなもので、アルバム収録曲もなかなかかっこいいじゃないかと思ったものだ。
そこから5人組クラッシュはアルバムで聴けるサウンドとは違うんだな、という興味が湧いてきて、 探してみると1983年末に録られたと思われるスタジオデモ音源を入手、パワー&ハードだけじゃないサウンドで作られた楽曲のデモ録音はカリプソあり、レゲエあり、「This Is England」もバンド・バージョンのアレンジで録音されていた(DVD『THE RISE AND~』にもそれらしき音源の一部が引用されている)。このデモを発展させてアルバムが録音されていれば、と思わずにはいられないものだった。実際、『カット・ザ~』を回収し、バンド自身で新たにアルバムを作り上げようという考えもあったらしい。
また、1985年5月におこなわれていたバスキング・ツアーのブートCDもあり、当時は自分達で移動して路上で演奏し日銭を稼ぐなんてずいぶん悲惨な状況にあるんだなと思っていたが、本人達は一番良い思い出、とても楽しかったと語っていて、もっと続けたかったらしい。バスキングを始めたのはジョーとニックのアイデアということだ。
クラッシュの歴史から『カット・ザ・クラップ』を消し去ることは出来ない。このアルバムの負の部分全てをバーニー・ローズや打ち込みのドラムとシンセをブログラムしたフェイニーというプログラマーのせいにすることも出来ないだろう。当時相次いだジョーの身内の不幸な出来事も考慮に入れるべきだと語る関係者もいた。パンクというロックンロール・フォーマットの復権から、レゲエ/スカなどの非ロック音楽とのミクスチャー、ヒップ・ホップ、ダンスビートとの融合、と進化してきたクラッシュというバンドの次の一手としてのデジタルビート導入は、表現方法の是非はあるものの、今振り返れば多くの人にほぼ理解されているだろう。
しかしこのアルバムでは新加入の3人によるバンドへの貢献度も分かりにくい。ヴィンス・ホワイトの本やDVD『THE RISE AND~』が世に出て、最後期のクラッシュについて注目があつまり、再検証(少なくともシングル「This Is England」だけでも再評価された)も進む中、証言や細切れの音源・映像だけではなく、5人が作ったデモ録音やライブ音源などで1984年~1985年のクラッシュの素の姿を公式にリリースして欲しいものだ。
『カット・ザ・クラップ』を再度購入しようという人がどれだけいるだろうか。リミックス可能なら本編を再度リリースしても良いかも?いや、あのアルバムに手をかける人はいないだろう。メンバーから嫌われたアルバムだ。それに『カット・ザ・クラップ』はバーニーがメンバーに相談もなくつけたタイトル。ここは当初のタイトル『ファック・ブリテン』とし、デモ音源やライブ音源を可能な限り収録した1枚でのリリースを望みたい。
で、本の内容に戻るとクラッシュの他、メスカレロス期の記事もあり特に1999年メスカレロス始動期のインタビューは内容も良く、読みがいがある。これだけでも買った価値はあった。ディスコグラフィはクラッシュ~メスカレロスまでにおよぶ。DVDも紹介されている。『カット・ザ・クラップ』は“ネイキッドな形でのデラックス・エディション化”を要望している。 「クラッシュ楽曲の邦題と原題」なんてコーナーは要らないだろう。これなら未発表曲リストのほうがよかったのでは?
それに気になるのは「AFTER THE CLASH」のコーナーでポール・シムノンの記事中、 “彼(ポール・シムノン)が音楽面、演奏面でバンドに残した物はそれほど多くはない”という箇所だ。同じTHE DIG増刊2006年発売のムックに掲載のポールに関する森岳史の記事をもう一度読んで欲しい。