OMNIBUS a Go Go Vol.79『FROM BRUSSELS WITH LOVE』

カセットオンリーでリリースされた音源というのは、もちろんカセット・テープが現役の頃だが、1980年代には結構あった。ジャケットをコピー印刷、ダビングすれば商品として出来上がるカセット・テープは、レコードをプレスするよりは簡単で安価なメディアであったのだろう。世界各国のバンド・アーティストは手軽な発表の手段としてカセット・テープを使用していた。このページでも幾つか紹介しているアメリカのROIRはカセット専門レーベルとして、ニューヨーク・パンク、ノーウェイブ周辺の発掘・ライブ音源や、日本のミュート・ビートのカセットなんかもリリースしていた。1990年代になっても例えば日本のクローバー・レコードなんか手作りのカセット・テープ・レーベルとして活躍していたものだ。パソコンによるDTMが手軽になり、CD-Rメディアへの移行、インターネット普及による動画での発表があたりまえになる以前の話。

CDが登場する前にはメジャー・レーベルでも収録時間が長く設定できる事により、ライブ盤などアナログ・レコードとは別バージョンでのカセットリリースやカセットのみでリリースする事もあった。今やカセット・デッキを持っているという人も少数になりつつあるし、カセットオンリーの音源も売り上げが良かったり、ある程度売り上げが期待できる音源はその後レコード化、CD化されている(もちろんそのまま埋もれてしまっている音源も多数あるだろう…)。

ベルギーのクレスプスキュールから1980年11月にカセットのみでリリースされたこのコンピレーションは、初回のリリースがブックレット付き黒ジャケット、2ndエディションが通常のカセット・ケースに入れられた白ジャケット、後に数度アナログ・レコード化、CD化された時には収録曲や曲順、アートワークの変更があった。オリジナルのカタログナンバーは"TWI 007"、タイトル『ブリュッセルより愛をこめて』とともにジェームズ・ボンドへのオマージュ。
私が購入したのはオリジナル初回カセットに準拠した収録曲(収録時間の関係でA Certain Ratio「Felch」がオミットされた)で、アートワークはこれまでのリリースの集大成ともいえるブックレットとなった、2007年にリイシューされたリマスターCD。

ジャケットからも窺われるがその内容もヨーロッパ耽美的。
ジョン・フォックスの薄闇に残る光のような「ジングル」に始まり、トーマス・ドルビーの名曲の初期バージョン「エアウェイヴス」へ続く。この2曲で印象はぐっと深まる。続けてアメリカのピアニスト、ハロルド・バッドの環境音楽のような「Children On The Hill」、ニューウェイブのバンド/アーティストの他にこういった作曲家の作品が収められていて、イギリスのピアニスト/作曲家、マイケル・ナイマン「A Walk Through H」、イギリスの作曲家ギャビン・ブライヤーズ「White's SS」を収録しアルバムのアクセントとなっている。

ドゥルッティ・コラムは2曲収録。1曲目はイアン・カーティスに捧げられた「Sleep Will Come」。この曲ではヴィニ・ライリーとサーティン・レシオのジェレミー・カーのボーカルというユニット。 2曲目はヴィニの爪弾く音のかけらが美しい「Piece For An Ideal」。ファクトリー・レコードの創立者でありプロデューサーのマーティン・ハネットの作品「The Music Room」、ベルギーのバンド、ネイムズの「Cat」はニューロマンティックな雰囲気だ。

ビ・バップ・デラックスにいたビル・ネルソン「The Shadow Garden」はヴァンゲリス的な作風。ケヴィン・ヒューイック&ニュー・オーダー「Haystack」は当初クレジットされていなかったが、バックをピーター・フック、スティーブ・モリス、バーナード・サムナーが演奏している。ドイツのデア・プラン「Meine freunde」はユーモラスなテクノ・ポップ。ワイアーのメンバーのB.C.ギルバート&グラハム・ルイスの「Twist Up」は反復する音響のツイスト。

他にはブライアン・イーノ、フランスの女優ジャンヌ・モローへのインタビュー、リチャード・ジョブソンの朗読、リペティション、フランスのバンドのラジオ・ロマンスを収録。最後はやはりジョン・フォックスの音の点滅を描いたような「ジングル」で終る。

黄昏時のブリュッセルから、時を越えて届いた音の便り。

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