OMNIBUS a Go Go Vol.80『RABID/TJM PUNK SINGLES COLLECTION』
ヴィニ・ライリーがドゥルッティ・コラム以前に在籍していたバンドがあったというのを知ったのは、シンコー・ミュージックから出ていた『ROOTS OF PUNK ROCK』というガイド本だった。パンク・ロックの歴史や訳詞や対談、アルバム・レビューなんかともに、白黒だけどジャケ写つきで100枚のパンク・シングル・レビューがあった。そこで初めてヴィニ・ライリーが在籍していたマンチェスターのパンク・バンド、ノーズブリーズ(THE NOSEBLEEDS)のシングル「Ain't Bin To No Music School」が存在する事を知ったのだった。けれども今のように情報がすぐ手に入る時代ではない(本が出版されたのは1989年)、そんなレアなシングルはおいそれとは見つからず、カップリングの曲名さえもわからないまま時は過ぎ…。
このコンピレーションは1996年にレシーバー・レコードからリリースされ、ノーズブリーズやエド・バンガー(ノーズブリーズのボーカル)、スローター&ザ・ドッグス等の音源をリリースしたラビッド・レコードと、やはりスローター&ザ・ドッグスやヴィクティム等の音源をリリースしていたTJMレコードのシングルからセレクト、ノーズブリーズが1977年にリリースした唯一のシングル「Ain't Bin To No Music School c/w Fascist Pigs」のAB面を収録している。
個人的にはノーズブリーズに尽きる。ヴィニ・ライリーが後のドゥルッティ・コラムで繊細さの奥に秘めた激烈な情熱をここでは聴く事が出来る。シングルA面「Ain't Bin To No Music School」で、“ジャン!”とオーケストラが演奏する交響曲に被さるヴィニのギターは、ドゥルッティ・コラムの演奏ではお馴染みのディレイを深くかけた繊細な音ではなく、自らのカッティングとコード・チェンジでディレイ効果を生むような、独創的なイントロを聴かせた後、一瞬の静寂を切り裂く鋭く熱を帯びたカッティングに導かれ、ドラム、ベース、ボーカルが性急な演奏に突き進む、高速で拡散していくようなギターソロも素晴らしい至福の3分間。
B面だった「Fascist Pigs」はストレートなパンク・ナンバーで、太いヴィニのギター・カッティングが炸裂。後半ヴィニの突っかかるようなギターソロが聴ける。公式に残っているのはこの2曲だけだが、他にどんな曲を演奏していたのだろう。ネットを見てみると、ライブ・レコーディングのCDアルバムが出ているようだが、本当にリリースされているのだろうか。うーん聴いてみたい。
他にはパワー・ポップといっても良いアウト「Who Is Innocent」、ディストラクションズ「It Doesn't Bother Me」はラモーンズのような曲調、ヴィクティムは2ndシングルとなる「Why Are Engines Red」のAB面と、3rdシングル「The Teen Age」のAB面を収録、甘いテイストが目立つ2ndシングル(悪くはない)だが、ラット・スキャビーズがプロデュースをした3rdシングルでは甘くメロディアスなテイストをノイジーに包んだパンキーな魅力が際立った。「Teenage」は強力なパンク・ナンバー。デヴィッド・ボウイの「Hang On To Yourself』のカバーもよい。スローター&ザ・ドッグスはラビッド・レコードからの1stシングルのAB両面と、TJMから1979年にリリースした12インチから4曲。
TJMレコードの最初のリリースだったV2、エド・バンガーの「Kinnel Tommy」、フランティック・エレヴェーターズ、パスティクス、ジャイロ、ジルテッド・ジョン、ジョン・クーパー・クラークを収録。
ノーズブリーズはシングルをリリースした後、ヴィニとボーカルのエド・バンガーがグループを去り、ギターにはビリー・ダフィ(後にシアター・オフ・ヘイト、ザ・カルト)、ボーカルにはダフィの強い薦めもあり(友人だった)、リハーサルをした結果モリッシーが加わるが、モリッシーのノーズブリーズは1978年の4月頃に2度のライブをおこなった後解散した。こちらもどんな演奏したのか、聴くことが出来る時は来るのだろうか…。