RCサクセション「ぼくとあの娘」
2002年に発売された雑誌『ロック画報』10号の付録CDに収録されていた初期のRCサクセションのライブは、当時(1972年)化粧品会社勤務の熱心なファンが密かに録音していたライブ・テープがもとになっていた。雑誌付録CDには6曲が収録されていたが、今回 “オフィシャル・ブートレグ ”としてユニバーサルから公式リリースされたCDもソース(提供元)は同じ。40本(!)のカセット・テープから選ばれた曲で全21曲を収録している。1972年から1973年にかけて渋谷ジャンジャンでのライブ11曲、青い森が4曲、収録場所不明が6曲という内容だ。当時未発表でのちにスタジオ録音された曲もあれば、完全未発表曲もあり、既発曲もちろん貴重なライブ・テイクなので全篇興味深いものだ。
「ぼくとあの娘」は後にアルバム『HEART ACE』で発表されているが、月並みな言い方になるけどこのブートレグ版の演奏はプリミティブな魅力とパワーを感じる。アウトサイダー同士の結びつきを描いた、あけすけで切なくも強力なナンバー。“あの娘はズベ公で~”という歌いだしから、ウッドベースの自由なライン、コーラスも練られたアレンジに改めて非凡さを感じる。ストレートで確信的な清志郎のボーカルが突き刺さってくるようだ。この曲はロック画報と同じトラックと思われるが、『悲しいことばっかり』収録のほうがスピードが半音位速くなっているような気がする。
『悲しいことばっかり』は個人がラジカセで録音していたもので音質が良くないのはあたりまえだし、私のようなブート盤も聴いてしまう者にとっては抵抗の無いサウンドではあるが、ロック画報付録CDと比べてしまうと少し違いを感じてしまう。ロック画報のCDは清志郎と破廉ケンチが立ち会ってマスタリングをおこなった、と記載があるので、雑誌の付録とはいえ、メンバーの2人の承認したサウンドで世に出たといって良いだろう。特に清志郎の耳を通っているという事は重要だ。今回のリリースに清志郎以外のメンバーがどの位関わったのかはわからないが、ロック画報付録CDよりも低音から中域が少なくなり、高音を主にしたマスタリングになっているようだ。それに音圧が高く聴きづらいと思うところもある。もちろん現在では清志郎のチェックを受ける事は出来ないので比べるのも酷なのだけれど。「ぼくとあの娘」で聴き比べるとギターの低音弦の響き、ウッドベースの鳴りはロック画報収録の方が豊かにあり迫力がある。『悲しいことばっかり』収録版はコーラス部分が聴きやすくなっていると思う。
アルバム『悲しいことばっかり』では6曲目に置かれている「ぼくとあの娘」だが、続く7曲目は「あそび」。後にソロアルバム『RAZOR SHARP』で発表される曲だが、アルバム『楽しい夕』に収録する予定だったことがこのライブのMCで語られている。レコード会社の自主規制でこの曲を入れたら発売禁止だと言われたらしい。 “あの娘とはただの遊びでやったのさ”と歌われる“ 性春ソング ”だが、強く結びついた関係を歌った「ぼくとあの娘」とは対照的な内容がいかにも清志郎らしい。この2曲を並べて収録しているのはセンスのよさを感じる。もちろんこの他も「弱い僕だから」や「お墓」、「ガラクタ」、「ベルおいで」等など素晴らしい曲が多々あり、貴重な記録である。