中西俊夫著『プラスチックスの上昇と下降、そしてメロンの理力・中西俊夫自伝』

K&Bパブリッシャーズより、2013年7月出版。

1956年生まれ57歳、プラスチックス、メロンの中心メンバーであり、メジャー・フォース・レーベルの設立者でもある中西俊夫の自伝が出版された。英題 " THE RISE AND FALL OF PLASTICS AND MELON, MAJOR FORCE BE WITH YOU " はデヴィッド・ボウイのもじりか。
これを読むと、プラスチックスが佐久間正英を除き素人というかイラストレーター、デザイナー等のクリエイターが遊び半分で結成云々…というものではなく、中西自身かなりの音楽マニアであり、中西に関してはもともとミュージシャン志向だったのだろう。なにしろ中3でグランドファンクの来日公演に行き、エレキ・ギター(グヤトーン製)とアンプとファズを手に入れ、翌年ゼップの来日公演に行き、高校の修学旅行を欠席してデヴィッド・ボウイの来日公演に行くくらいだ。高校卒業後にはセツ・モードセミナーに通いつつ原宿キディ・ランドでメロディ・メーカー、NMEなどの音楽紙や洋書の音楽雑誌を手に入れてたと書いてある。

1976年にはプラスチックスを結成、パーティ・バンドとしてボウイやヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ロキシー・ミュージックなどのカヴァーを演奏していたが、決定的だったのは取材に行ったボウイから「オリジナル曲を作れ」という助言を受けたこととセックス・ピストルズの登場。もちろん色々なところから影響は受けたと思うが、中西はこれからはクラフトワーク+ピストルズという考えになったらしい。

1977年には日本コロムビアのスタジオでデモを録音している。録音されたのは5曲で、この自伝の付属CDに収録されている(今回が初リリース)。収録曲は以下の通り。
「Anti Christmas」
「Digital Watch」
「I Am Plastic」
「Tokyo Banzai」
「Hate」
このデモのプロデューサーは何故か本文中では「山***」と伏字になっているが、2005年のタワーレコード・オンラインの記事『中西俊夫のニューウェイヴな世界』で中西は別に隠さず「山下達郎がプロデュースしてる」とコメントしている。
ヴォーカル、ギター、ベース、キーボード、ドラムス、コーラス×3の計8人という初期のバンドサウンドが録音されているが、「Anti Chirstmas」ではジョニー・ロットン似のヴォーカルとピストルズ風のサウンド(特にドラム)が聴ける。「Tokyo Banzai」はクラッシュの「London's Burning」からの引用も含むパンク・ナンバー。さらに過激に悪意剥き出しでアナーキーな「Hate」もカッコイイ。「Digital Watch」と「I Am Plastic」は後にファーストアルバム『Welcome Plastics』に収録される楽曲だが、「Digital Watch」は一部歌詞が違う。このデモ録音を仕切った桑原茂一は山下達郎の起用をピストルズ/クリス・トーマスの線を狙ったらしい。

この付属CDには青山Q's Barで1977年に行われたライブから、
「Waiting For The Man」(ヴェルヴェッツのカヴァー)
「Tokyo Banzai」
「I Am Plastic」
「I Can't Stand It」(ルー・リードのカヴァー)
も収録されている。
ライブはやや音質に難ありだし、デモ録音は練られて完成された音ではないが、この最初期のデモ+ライブのCDを聴くだけでも価値ある本だ。

それぞれのエピソードはあまり深く掘り下げずにさらりとした印象だが、ディティールは細かい。セデショナリーズを初めとしたファッション周辺、音楽業界模様(裏模様)、アメリカ・ヨーロッパツアー道中記、Sex and Drugs and Rock'n' Rollな記載もありつつ、年表、ディスコグラフィも含め、ほぼ400ページにわたりプラスチックス~現在までの中西の活動を網羅している。写真はカラー16ページと文中にちらほら、宅八郎による細かい注釈も満載だ。

このブログの人気の投稿

TH eROCKERS「可愛いあの娘」

NICO『LIVE IN DENMARK』

ザ・ルースターズ「PLAYLIST from ARTISTS」