頭脳警察「詩の朗読という詩」
副題に“~ZK結成45周年記念アルバム・寺山修司没30年によせて~”とあるように、収録曲のうち6曲が寺山修司作詩の作品となっている。
「詩の朗読という詩」は寺山修司の詩を朗読するパンタと灰野敬二のギターによるセッションというかバトルというかインプロビゼーション。比較的聴き易く3分程の曲が並ぶ中で、8分を超える詩の朗読とフリーキーなギター演奏のみのこのトラックはアルバムのハイライトとなった。
ブックレットにはスタジオで向かい合っているパンタと灰野の写真があるが、お互いの演奏、声、呼吸を感じながら録音されたものだろう。何もない空間に言葉と音を存在させようとする、何物かを生み出そうとする、二人の緊張感を持った創造性が感じられるテイクである。 “詩”というものが持つパワーと無力さを朗読するパンタの、頭脳警察結成から45年という時の流れに裏打ちされたヴォイスと、掛け合う灰野のインスピレーションに満ちたエレクトリック・ギターは圧倒的だ。ここでの寺山の言葉は聴く者との銃撃戦の様相となった。トシのコンガと三つ巴でもよかったかも。
他にはカヴァー・ヴァージョンが2曲あり、「あしたのジョー」(寺山作詩、八木正生作曲)は、リズムを強調したヴァージョンとフォーク・ロック調にした2つのヴァージョンが収められているが、どちらも味はあるものの、もうひと捻り欲しかったところ。むしろ原曲に近いアレンジでよりヘヴィにしたら良かったんじゃないかと個人的には思う。「戦争は知らない」(寺山作詩、加藤ヒロシ作曲)はカルメン・マキのヴァージョンで親しんでいるが、ここはストレートにフォーキーなアレンジ。この曲を頭脳警察名義で聴けるのはうれしい。コーラスには制服向上委員会が参加。
「いじわる猫」は1973年にリリースされたアルバム『寺山修司・イソップ物語』(歌・田中星児)にパンタが曲提供した作品のセルフ・カヴァー。田中星児のヴァージョンは聴いたことがないのだけれど、1973年は頭脳警察がアルバム『誕生』、『仮面劇のヒーローを告訴しろ』を発表していたころ。『誕生』や1972年末リリースのシングル「孤独という言葉の中に c/w 今日は別に変わらない」に似た雰囲気を感じさせるメロディを聴くことができる。田中星児ヴァージョンも聴きたくなってきた。
「時代はサーカスの象にのって」は数度目になる再録音で、まぁ改めて作り上げたいイメージはわかるが、繰り返し録音する度に曲の持つ鮮烈な印象は薄らいでいってしまう。新曲としては頭脳警察のオリジナル「暗転」とわらべ歌の“ほたるこい”を挿入した「蛍転~そして第二景~」、寺山作詩、パンタ作曲の一度聴いたら忘れられないフレーズを持つ「地獄めがけて~蹴球学の前奏~」を収録。もう少しトシのコンガを大きくミックスして欲しかったり、サウンド・プロダクション的には注文したいところもあるが、なかなかに力の入った頭脳警察らしいアルバムになった。