My Wandering MUSIC History Vol.7 カルメン・マキ&OZ『カルメン・マキ&OZ』
友人達のバンドで四人囃子の「一触即発」とともに良く演奏されていたのがカルメン・マキ&OZの「私は風」。女性ヴォーカルの曲を男子が歌っていたのだが、たぶんオリジナル・キーで演奏していたと思うので、まぁ良く音域が合ったものだ。「私は風」は冒頭ハードなパートに続いて静かな歌のパートがあり、中盤にギターソロ、後半にもハードな盛り上がりを持っているなど曲構成では四人囃子の「一触即発」と似た構成となっているから(もちろん曲が似ているわけではない)、ギターキッズに人気の曲だった。スキャットの合いの手が入るのもユニークだった。11分超えの曲ながら、そんな長さを感じさせない作りとなっている。
寺山修司/天井桟敷の歌姫・アイドルとしてのキャリアを捨て、日本のロック黎明期、女性ロック・ヴォーカリストの草分け・パイオニアとしての決意表明とも受け取れる「私は風」の歌詞は、マキ本人(Maki Annette Lovelace)によって書かれたものだ。寺山のもとを離れ、試行錯誤を繰り返しながらロック・ヴォーカリストとしてのキャリアを積み、ギタリスト・春日博文とカルメン・マキ&OZを結成、ライヴを重ね幾多のレコード会社からの誘いを受けつつも“もっと上手くなってから…”との理由で契約を断り続けていたオズが結成から約3年後、満を持して発表したファースト・アルバムのラストを飾るにふさわしい曲で、カルメン・マキ&OZを代表する曲。
初めてこのアルバムを聴いた中学生のときはハード・ロック小僧なので「私は風」以外の曲がややアコースティック色が強いな、という印象を受けた。アルバム全体から工夫された多彩なイメージを受けつつも、ガキの私にとっては難解だったのだろう。後にこのアルバムを聴きかえして特に好きになったのはアルバム1曲め「六月の詩」。
イントロのもの悲しく沈鬱に響くピアノ、マキのパワーを秘めた繊細でワイルドでありながらどこか母性を感じさせる歌声、効果的なハモンド・オルガンやコーラス・ワーク、緩急のあるギター・ソロ、起伏に富んだ楽曲を支えるリズム隊、聴き応えのある抒情的なバラードだ。この曲の作詞は(ダディ竹千代こと)加治木剛で、夏の前のなまぬるい季節を切り取り、乾いた夏を切望する気分を込めたような歌詞は不思議な訴求力がある。このアルバムでも4曲に作詞のクレジットがある加治木の歌詞は、都市を舞台とし、そこで暮らす人々を描きながら、土や草など自然の匂いを感じさせる独特の魅力がある。
ドラムは「午前1時のスケッチ」を除き古田たかしで、オズに参加した時は15歳だった。このアルバム録音時は17歳くらいだろうか。正に天才的なドラマーである。
アルバムにはフォーキーな「朝の風景」、やはり抒情的な大作「Image Song」、真夜中の街角の風景を切り取ったヘヴィな「午前1時のスケッチ」、ラグタイム風な「きのう酒場で見た女」と、バラエティに富み単にハード・ロックというよりアコースティックなサウンドを多く取り入れ(もちろん物真似じゃなく)レッド・ツェッペリンの3枚目以降の様な音作りになっていると思う。