My Wandering MUSIC History Vol.18 LIZARD『LIZARD』
私が日本のパンク/ニュー・ウェイヴで初めて手にしたアルバムは『東京ロッカーズ』と『東京ニュー・ウェイヴ'79』(いずれも1979年リリース)。この2枚のオムニバス・アルバムはどちらもトータルで大好きなアルバムだけれど、以前にとりあげているのでここでは取り上げない。『東京ロッカーズ』に収録されているバンドで単体として追いかけて聴き始めたのはリザードだった。Mr.カイトやミラーズは自主製作のシングルは手に入れられなかったしアルバムが出なかった(リザードのファーストがリリースされる1979年11月には、Mr.カイトもミラーズも解散していた)。フリクションは(恒松のHPを作っておいてなんだが)当時10代半ばの耳には若干敷居が高かった。リザードはアルバム『東京ロッカーズ』に起承転結、オチもあるブラック・ユーモアな「ロボット・ラブ」と、現実への失望と奪われた夢の復活を歌う「レクイエム」の2曲を収録していたが、モモヨのヴォーカルは聴き取り易く、アレンジもポップでどちらも気に入って聴いていた。
地引雄一による工場を写したコントラストの強い無機的なモノクロ(一部の光がイエローに光っている) の写真を使用したリザードのファーストアルバムのジャケットはそれだけでアートだったし(地引の実家に近い京葉コンビナートのチッソ五井工場の夜景が使われた)、帯に書かれたコピー “鋼鉄都市ヲ破壊セヨ” には、それまでの日本のロック/ポップスとは違う、という変革へのアティテュードを感じたものだ。アルバムのプロデュースは空手修行の為に来日していたときにリザードのライブ・テープ(S-Kenスタジオで録音されたもの)を聴いたストラングラーズのジャン=ジャック・バーネルで、ロンドンのエデン・スタジオで1979年7月28日から8月2日にかけてレコーディングされている。
キーボードの薄い靄のなかで始まるアルバムの1曲目「New Kids In The City」はミディアムな落ち着いたトーンのナンバーでパンク・ロック的な激しさは無いが、ジャケットのイメージとあわせて近未来的な印象を受けた。モモヨが常に意識していたアンファンテリブルな目線を持ち、裏通りで遊ぶ新しい子供達の未来に対する変化への呼びかけであり、硬直した大人たちの世界への決別の宣言である。そして新しい感性を高らかに謳い上げつつも、「ラジオ・コントロールド・ライフ」や「T.V.マジック」、「マーケット・リサーチ」、「モダン・ビート」では、テレビやラジオなどのマスが送り出す情報に操られ管理される “新しい管理” の情景をアイロニカルに描いている。
1978年にガイアナで起こったカルト教団による集団自殺をモチーフにした「ガイアナ」、大陸(アジア)への繋がりを夢想しつつ過去の振る舞いに現代の自分を重ね合わせる幻視的な「記憶/ASIA」、一触即発な社会状況をモチーフにした「そのスウィッチに触れないで」などは国際的な社会状況も興味深く視野に入れている。都市や機械的な労働のもとで暮らす人々の荒廃してゆく姿をとりあげた、レゲエ調の「プラスティックの夢」や 先の “「ロボット・ラブ」その後” といった「ラブ・ソング」も強烈な印象を残した。ジム・モリソンに捧げた散文詩に曲を付けたという「王国」は1974年頃に作られた紅蜥蜴時代からのナンバー。ベースラインと鐘の音が交わる曲の後半も聴きどころだ。
ストラングラーズ直伝のベースにリズムも多彩で効果的にシンセを活かしたサウンドは魅力的、歌詞の内容も興味深く、やはり日本語で歌われる言葉はビートと共にダイレクトに体に染み込み、日本のパンク/ニュー・ウェイヴへの期待を大きくした1枚である。