My Wandering MUSIC History Vol.24 PANTA & HAL『TKO NIGHT LIGHT』
パンタの音楽を初めて聴いたのはおそらくこの2枚組のライヴ・アルバムだったと思う。もしかしたら当時出来はじめていたレンタル・レコード店で借りたかも。
このアルバム聴いたら虜になるよね。頭脳警察解散後ソロ~この時までの代表曲を選曲(と当時未発表の6曲)した全16曲のダブル・アルバム(CD化の際1枚にまとめられた)。アルバムの冒頭、曲がはじまる前の指慣らしのような何気ないギターやベースの音にもスリリングな雰囲気を感じる。1980年という時代のページがひとつめくられて、20世紀末へのカウントダウンが静かに始まり、日本の世相にとどまらず、世界の地図が動き出す予感と、 “HAL”というグループ名のもとになった21世紀への新たな冒険への期待と熱気をパッケージしたドキュメントでもある。
東京・日本青年館で行われたライヴが録音されたのは1980年7月16日でPANTA&HALとしては活動末期にあたる。バンドは1981年2月に解散してしまう訳だが、パンタが音楽方向性についてバンドのメンバーと移動中の新幹線の中で一対一の“面接”をするのは5ヶ月後の1980年12月。1981年1月早々に持たれたミーティングでパンタからバンドメンバーに解散が伝えられたという(『PANTA&HAL BOX』付属ブックレットより)。この時間の経過を見てみると、7月のライヴ・レコーディング時に“解散を前提とした記録”という意味付けはなかったと思う。『マラッカ』、『1980X』と2枚の傑作スタジオ・アルバムを世に問い、メンバーを変えながらも時代と時代の音楽に対峙してきたバンドの集大成として、また次へのステップ・通過点、一夜の記録として聴いてもらいたいと思う。
PANTA&HALの活動初期から演奏されていたテーマ曲「HALのテーマ」、オリジナル・メンバー今剛在籍時に作られたファンキーな「羅尾」、 次に制作される予定だったHALのアルバム『クリスタル・ナハト』に収録するはずのドイツを舞台にした「フローライン」、TOKYOでもなくTOKIOでもなくTYOでもなく“TKO=東京”の都市の風景、それも都市にテクニカル・ノック・アウトされた、かなり殺伐とした風景ばかりを切り取った歌詞と成田空港にまつわる逸話をあわせこんだ、このライヴ・アルバムのタイトルにもなった「TKO NIGHT LIGHT」、ライヴ・ツアー用に作られたというコンパクトな「Baby Good Night」と「タッチ・ミー」、この6曲が本作で初収録となった曲だ。
HAL以前のソロ1作目『Pantax's World』収録曲「屋根の上の猫」は、スタジオ・ヴァージョンのハードさに多彩なリズムを取り入れHALヴァージョンに仕上げてある。同じく「マーラーズ・パーラー」はディランの「ライク・ア・ローリング・ストーン」のような印象のフォーク・ロック・タイプから、複雑な響きのコード感を感じさせる「マーラーズ・パーラー'80」と名付けられたヴァージョンとなった。歌詞の一部が伏字なっていた“KCIA”(客が代わりに叫んでいる)も今では懐かしい。この曲の歌詞は訳わからないけど使われている言葉の語感が大好きになった曲。 “マルコムX”って何だ?って、いろいろ気になる言葉も並んでいた。
ライヴならではのダイナミズムを特に感じる「つれなのふりや」。タイトルで使っている言葉は古いのにHALというバンドで歌われると未来への船出を感じさせる、レゲエのビートがまた浮遊感を増している。なんといってもバラードの「裸にされた街」。こんな曲が日本に存在することがうれしかった。美しいメロディ、淀みのない演奏、君が好きだという内容じゃなく住んでいる街や国や人々に向かっている歌詞、映像の喚起力があって、何の歌なのだろうと深く考えることもできる。素晴らしい曲。この曲を聴けたことがほんとにうれしかった。
そして「ステファンの6つ子」も美しく力強いバラード。シングル「ルイーズ」のB面にスタジオ・ヴァージョンが収録されているが、当時シングル盤よりアルバムを手にすることが殆どだった私が、このシングル盤を手に入れるのはしばらく後の事だ。「モーター・ドライヴ」で歌詞をすっとばしたのがそのまま収録されているのも潔いなと思ったし臨場感はいや増している。臨場感といえば客の“パンタ~”という叫びもタイミングが絶妙なところがあってライヴ感があるんだよな。
とにかくこのライヴ盤は愛聴した作品でシンリジィのライヴ盤のとこでも書いたけど、長距離旅行には必ずカセット・テープを持って行ったものだ。リリース当時からだから長らく愛聴してるけど、今回これを書くのに数年ぶりに全曲通して聴いた。古くないね。新鮮さもあるし。 ハードだけじゃない、フュージョンだけじゃない、プログレだけじゃない、パンクだけじゃない、ニュー・ウェイヴだけじゃない、ロックだけじゃなく、だけどロックを感じる深さがここにはある。