My Wandering MUSIC History Vol.25 頭脳警察『誕生』

1973年4月ビクターよりリリースのアルバム。

PANTA&HALのライヴ『TKO NIGHT LIGHT』を聴いた後、スタジオ・アルバム『マラッカ』、『1980X』と聴き進み、当然頭脳警察はどんな音なんだ、と興味がわいてくる。この頃、1980年頃には自主盤の『ファースト』はもちろん、『セカンド』と『3』も手に入るような状態ではなく、近所のレコード屋で唯一売っていた頭脳警察のアルバムは『誕生』だけだった。たぶん当時でも注文すれば『仮面劇の~』と『悪たれ小僧』は手に入ったと思うが。

初めて聴く頭脳警察のレコードにしては『誕生』は少々地味すぎるかもしれない。ジャケットは真っ黒な地に銀色で歌詞が印刷してあるだけ、アーティスト写真もなし。見開きジャケの内側には拳と足のイラストというかデッサン画。それよりなにより相棒のトシがこのアルバムには不参加なのだ(だからアーティスト写真がないのも当然か)。これまでの“過激で政治的な”頭脳警察のイメージから転換を図るためスタジオでの制作に力を入れようと考えたパンタは、トシに正確なリズム・キープを要求するが“俺は機械じゃねぇ”と言ってトシは頭脳警察を離れていってしまう。そこでドラム田中清司、ベース式部秀明というスタジオ・ミュージシャンに演奏を依頼、キーボード・プレイヤー及び大きく導入されたストリングスのアレンジも含め馬飼野康二がアレンジャーとして参加し制作された。なおクレジットは無いがギターに水谷公生が参加、「鹿鳴館のセレナーデ」には石間秀樹が参加しているという(『結成40周年記念BOX・無冠の帝王』ブックレットより)。

パンタがこれまでに書き溜めていた楽曲が選ばれ、抒情的なバラードの側面に光が当てられた内容となっている。ハードなロック色は抑えられてアコースティックな仕上がりの曲が多い。 フルートがフューチャーされてドラマチックな構成の「悲しみにつつまれて」や、後々長くライヴでも取り上げられるイメージ豊かな「詩人の末路」、退屈な雰囲気がよく出ている「もうあきた」、高校時代にテスト用紙の裏に詩を書いたという「鹿鳴館セレナーデ」(詩集『ナイフ』にはアルバムでは歌われていない3番の歌詩が収録されている)、ゲーテの詩に曲をつけた7分を超える荘厳な「心の落ちつき失せて」。この5曲がスローなバラード。えぇ買いましたよゲーテの詩集を。それからヘッセの詩集も…。

バンド・サウンドとしては2010年に頭脳警察結成40周年を記念してリリースされるボックス・セットのタイトルにもなった「無冠の帝王」、ロックンロールの「やけっぱちのルンバ」と「メカニカル・ドールの悲劇」、このアルバムの為に書き下ろされたという「破滅への招待」がある。アルバムのなかでもユニークなのが「あなた方の心の中に黒く色どられていない処があったらすぐ電話をして下さい」で、 タイトルも長くて奇妙だが、“アニ マニ マネ ママネ シレシャリテ”と呪文が出てきたり、ザッパ的な入り組んだ曲の構成も面白い。この曲はスタジオ・ミュージシャンを起用した成果とも言える。

PANTA&HALでパンタの書くバラードに強く惹かれた私としては、頭脳警察の新たな“誕生”ともいえるこの異色作を素直に受け止められた。まぁそれ以前の頭脳警察のイメージが無いわけだからね…。

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