My Wandering MUSIC History Vol.34 THE MODS『FIGHT OR FLIGHT』

1981年6月21日、エピック・ソニーよりリリースのアルバム。

ザ・モッズの初期のスタイルはヴィジュアル的にも格好良かったなぁ。友人の部屋の壁にファースト・アルバムリリース時のポスターが貼ってあって、たぶんロンドンでのレコーディングの時に撮られたものだろうけど、地下道にメンバー4人が並んだモノクロの写真だった。 “For The Broken Kids”とかアルバム帯に“すべてのグループを前座にする”とかいったキャッチ・コピー。スリムなブラック・ジーンズ、シャープシューズ、革ジャン、森山のセットされた髪型、首にはバンダナ。

ファースト・アルバムのジャケットもクラッシュのファーストを下敷きにしたようなデザインになってる。歌詞カードにはロンドン・ヒュー・ストリートのパブの前に立つメンバーの写真とトミー・スミスのシルエット。ファースト・アルバムのサウンド全体では、もともと森山らメンバーが好きだった初期フーなどのブリティッシュ・ビートに、パブロックやピストルズの『Never Mind~』、ジョニー・サンダース等のパンク影響下で、特にクラッシュのセカンド『Give 'Em Enough Rope(邦題:獣を野に放て)』や同時期のクラッシュのシングル作品に強く影響されたサウンドだと思う。エピックとの契約の際にバンドから提示したロンドンでレコーディングするという条件は、1981年4月~5月ロンドンのマトリクス・スタジオで叶えられた。

シド・ヴィシャス(本名・ジョン・サイモン・リッチー)をモデルにした「不良少年の詩(SONG FOR JOHN SIMON RICHIE AND US)」はスピーディで各楽器の絡みがスリリング。モッズが最初に契約しかけたアルファ・レコードでの出来事を題材にした「WATCH YOUR STEP」、サンフランシスコのガレージ・バンド、フレイミン・グルーヴィーズの「Shake Some Action」を引用した「崩れ落ちる前に」。この曲はファースト・シングルとしてもリリースされている。こんなカッコいい曲作れるんだぁと思ってたけど、元ネタがあったのを知ったのはずーっと後だった。でも完全にモッズの曲になっているよ。“崩れ落ちる前に/崩せ”というフレーズが特に印象的だった。崩れていくのを傍観者として見ているのではなく、自ら崩すのに手をかけろというパンクの“破壊衝動”ともいうべきものをうまく取扱い表現している曲だと思う。つづく「HEY! GIRL」はモッズのソフトな面が伺える曲でギターソロが印象的な曲でもある。アナログA面ラストは無謀な暴発はするなと訴える「が・ま・ん・す・る・ん・だ」で、スピード感がたまらないナンバー。

アナログB面は「TWO PUNKS」で始まる。この曲もアルファ・レコードでの出来事(契約が2か月だった)についての言及もある歌詞で、その時に博多から東京へ出てきたバンド、というか二人のパンクス(森山と北里がモデルだろうか)に材をとったややドラマ仕立てのナンバー。当時のモッズというか森山のバンドを取り巻く環境~東京進出やレコード会社、プロモーション、他の九州出身バンドのレコード・デビュー~などに対する苛立ち、焦りみたいなものが歌詞に込められていると思う。自らの音楽による成功の為の一歩、レコード・デビュー。だけどそれはいつ叶うのかわからない。付き合っている彼女は“いつまで続けるのHey Darling”そう言いがやる。このフレーズに森山の焦りがよく表れている。サウンドはクラッシュの「ハマースミス宮殿の白人」のレゲエ・テイストを消化し、「クランプダウン」なんかも参考にしているんじゃないかな。でももちろんモッズの、モッズを代表する曲となっているし、心ある若き(そして優しき)パンクスは随分影響を受けただろう。

時には無気力になる日常を歌う「NO REACTION」、別れのシーンを歌うアコースティックな「くよくよしたって…」、クラッシュの「All The Young Punks (New Boots And Contracts)」の歌詞を引用した「ONE MORE TRY」、傷を負うのを怖がるなとキッズ達に伝える「TOMORROW NEVER COMES(WARNING FOR KIDS)」は、アルバム・タイトル“FIGHT OR FLIGHT(前に進むか後ろへ退くか)”に通じるメッセージだ。

−FIGHT OR FLIGHT−進むか退くか、いずれかのシーンを森山達也が描いた10曲をまとめたアルバムに相応しいタイトルだと思う。アルバム全体を通して苣木のレス・ポールが繰り出す太いギターのサウンドと激しい中にもメロディアスなギター・プレイが光り、梶浦の叩き出すタイトなドラムスが強く印象に残る。クレジットには無いが数曲でキーボードが加えられている。

アナログ・リリースの初回盤には1980年に公開された石井聰亙監督の映画『狂い咲きサンダーロード』 に使用された「うるさい c/w SHONBEN」のソノシート(2曲入片面)が付属していた。これぞパンク・ロックというジョニー・サンダース直系サウンドの2曲だ。後々モッズのサウンドは正直“モダン”とは言えなくなり、またクラッシュというよりもジョニー・サンダースのようなロックン・ロール・スタイルになっていったことから、このソノシートに収められている音は現在までに繋がる、まさにモッズの原点、または核といえる音だ。

レコード・デビューから33年か…。レコード・デビュー時のメンバーになったのが1977年。ドラムの梶浦が脱退したのが2007年。現在では1984年生まれの佐々木周がドラムを叩いている。

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