VARIOUS ARTISTS『SWEETER! ROOTS OF JAPANESE POWERPOP 1971-1986』
パワーポップというと連想するのは、まずニック・ロウ「Cruel To Be Kind(邦題:恋するふたり)」。それとブラム・チャイコフスキー「Girl of My Dreams」かな。キャッチーなメロディ、 アコースティック・ギターのジャングリーな感じ、コーラス・ワーク、 やや手数の多いドラム、ギターソロもメロディアスに作ってあったり。ボトムを効かせたリズムがありながらも、爽やか&甘酸っぱいイメージも少々。アメリカだとリアル・キッズ「All Kindsa Girls」が思い浮かぶ。日本だと…。
このコンピは1970年代中頃に活躍した日本のバンドのレアな音源を中心に旧東芝EMIのカタログから選ばれた18曲を高木龍太がコンパイルしたもので、10年越しの企画がようやく実ったということだ。“日本のパワーポップのルーツ”と題されている。どうやら諸々の事情でパーフェクトな選曲となっていないようだが、素晴らしい内容に変わりはない。
このCDの曲順ではなくバンド毎にブックレットからの情報をもとに内容を紹介
(収録曲名の後の数字はリリース年月日)。
リンドン
・「陽気な雨」(1974.5.5)シングルA面
・「タンポポ・ガール」(1974.5.5)シングルB面
・「悲しき想い」(1974.10.5)シングルB面
・「赤いドレスは着ないでおくれ」(1975.12.1)シングルA面
の4曲を収録。
このCDを購入する大きな理由がリンドンの楽曲を聴きたかったから。リンドンは、
田中信昭(Vo,B):のちにTHE BADGE
田中一郎(G,Vo):のちにARB
伊藤薫(Ds,Vo):のちにチューリップ
というメンバーのスリーピース・バンドで1971年に結成。1974年5月にシングル「陽気な雨 c/w タンポポ・ガール」でデビュー。同年10月セカンド・シングル「夏の日の恋 c/w 悲しき想い」をリリース。1975年12月に3枚目のシングル「赤いドレスは着ないでおくれ c/w 雨の日にさようなら」をリリース。アルバム制作の動きもあったようだが実現せず、1977年初頭に解散している。今回はリンドンの残した3枚のシングルから4曲が収録された。
このCDを購入する大きな理由がリンドンの楽曲を聴きたかったから。リンドンは、
田中信昭(Vo,B):のちにTHE BADGE
田中一郎(G,Vo):のちにARB
伊藤薫(Ds,Vo):のちにチューリップ
というメンバーのスリーピース・バンドで1971年に結成。1974年5月にシングル「陽気な雨 c/w タンポポ・ガール」でデビュー。同年10月セカンド・シングル「夏の日の恋 c/w 悲しき想い」をリリース。1975年12月に3枚目のシングル「赤いドレスは着ないでおくれ c/w 雨の日にさようなら」をリリース。アルバム制作の動きもあったようだが実現せず、1977年初頭に解散している。今回はリンドンの残した3枚のシングルから4曲が収録された。
収録された4曲は全て田中信昭の作詞作曲で、やはりのちにザ・バッヂに通じる甘酸っぱいメロディーをもったもの。1,2枚目のシングルからの収録曲は外部のアレンジャーによるもので、弦が使用されストレートなバンドサウンドとは違っているが、個々のプレイは目立っており魅力的な楽曲群だ。「陽気な雨」では田中一郎のソロ・ヴォーカル・パートも聴くことが出来る。 「タンポポ・ガール」は伊藤薫がリード・ヴォーカルをとるスウィートなナンバー。「悲しき想い」は田中信昭がリード・ヴォーカルのビートリッシュな印象もあるが、やや弦のアレンジがオーヴァーな感じ。「赤いドレスは~」も田中信昭がリード・ヴォーカルの曲でアレンジもバンド自身がおこなっているオールディーズ風なキュートな曲。田中一郎の各曲のウィーピーなギターソロも聴きものだ。リンドンは正式にレコーディングされなかった楽曲が多くあるというが、デモやライヴで残っていれば何らかの形でリリースして欲しいなぁ。
ザ・ジャネット
・「スウィーター」(1974.10.5)アルバム『グリーン・スピードウェイ』収録曲
・「何が君をそうさせる」(1974.12.20)シングルB面
・「あの娘の胸に途中下車」(1975.7.20)シングルA面
・「セピア色の写真」(1975.7.20)シングルB面
の4曲を収録。
ザ・ジャネットは、
松尾ジュン=松尾一彦(Vo,G)
佐々木かつみ(G)
大塚ケン(B)
大間ジロー(Ds)
というメンバーで、松尾と大間はのちにオフコースに参加する。
このCDのタイトルにもなっていて1曲目に収録されている「スウィーター」は、バンドがアマチュア時代から演奏していた大間ジロー作詞、松尾ジュン作曲の楽曲で、 豪快なドラムとややハードなギターのサウンド、効果的にアコースティック・ギターも使われ、甘いヴォーカルのキャッチーなメロディを持った曲。確かにジャパニーズ・パワーポップのオムニバスを代表するにふさわしい。このコンピのジャケット写真もジャネット。
ジャネットがリリースしたアルバム、シングルにはバンドが演奏に参加していなかった楽曲が多くあるというが、このCDにはバンドが演奏した4曲が収録されているという事だ。そんな事情をうかがわせる外部作家による「何が君をそうさせる」(阿久悠作詞、井上忠夫作曲)はポップンロールな曲。タイトルも物凄い「あの娘の胸に途中下車」は松本隆作詞、大間ジロー作曲のこれまた泣きのメロディを持ったポップなナンバー。そのB面の「セピア色の写真」は松本隆作詞、松尾ジュン作曲のバラードで、松本の詞世界にぴったり合ったアコギ中心の演奏を聴くことが出来る。この曲A面でもよかったじゃないかと思う出来栄え。ザ・ジャネットは1974年のデビューからシングル4枚とアルバム1枚をリリースした後、1975年末に解散した。
ザ・バッド・ボーイズ
・「僕と踊ろう」(1975.8.20)シングルA面
・「アイツのせい」(1975.8.20)シングルB面
の2曲を収録。
ザ・バッド・ボーイズは、
ファン・リック・ヨーナム(Vo,G)
清水仁(Vo,B)
川端孝博(G,Vo)
城間正博(Ds,Vo)
というメンバーで、清水はのちにオフコースへ参加、ファン・リックことリッキーはのちにリッキー・アンド・リボルバーを結成する。ザ・バッド・ボーイズはビートルズを完コピしたアルバム『ミート・ザ・バッド・ボーイズ』で1973年10月にデビュー。「僕と踊ろう」はややGSっぽい印象のセカンド・シングル曲でファン・リック・ヨーナム作詞作曲のオリジナル曲。ドラムがリンゴを思わせるなぁ。そのB面曲の「アイツのせい」は小田和正作詞作曲のビートリッシュなナンバー。
ザ・バッド・ボーイズは1976年頃に解散。その間にリリースしたのはアルバム1枚とシングル2枚のみ(他に変名でカラオケ・アルバムが1枚)。デビュー時のビートルズ・イメージが強烈すぎて、なかなかバンドのオリジナルな面を打ち出せなかったようだ。
ベイ・シティ・フェローズ
・「ウェルカム R-O-L-L-E-R-S」(1977.8.5)シングルA面
・「ユ―・アー・ジ・オンリー・ワン・アイム・イン・ラブ」(1977.8.5)シングルB面
の2曲を収録。
1977年8月のベイ・シティ・ローラーズ来日に合わせてリリースされた覆面バンド“ベイ・シティ・フェローズ”によるシングル。このCDのライナーによると録音メンバーは、
松尾一彦【元ジャネット】(Vo)
大間ジロー【元ジャネット】(Ds)
清水仁【元バッド・ボーイズ】(B)
重実博(G)
というメンバーで録音されたという。
ベイ・シティ・ローラーズ。1970年代中頃ここ日本の女子達にも絶大な人気を誇り、という事は男子達に敵視されたイギリス・エジンバラ出身のバンド。タータンチャックの衣装を身にまとい、甘いマスクのメンバー、演奏する曲はポップ…。パープル、ゼップ、キッス等のハード・ロックを愛する当時の我々には全く聴く耳もたない音楽とされていた(それでも耳に入ってくるほど流行っていた)。その外見にとらわれずベイ・シティ・ローラーズの音楽のみを聴けるようになるのはずーっと後の事だ。
この企画物シングルはこのCD収録バンド達にとってのキーパーソンともいえる重実博が重要な役目となっているのだが、そのあたりはCDのライナーを読んでほしい。サウンドはベイ・シティ・ローラーズにオマージュを込めたもので「ウェルカム~」はポップなビート・ナンバー、「ユー・アー・ジ・オンリー~」は重実の弾いたというオルガンも効果的なビートリッシュなバラード。
ロッキーズ
・「夏のラブ・ソング」(1978.6.5)シングルB面
の1曲を収録。
ロッキーズは、
成岡康之(Vo,B)
上村功(G)
高木智司(G,Vo)
高木貴司(Ds)
というメンバーで、シングル2枚、アルバム1枚をリリースしている。この曲は1978年6月にリリースされたデビュー・シングル「砂漠のファンタジー c/w 夏のラブ・ソング」のB面曲で、橋本淳作詞、日高富明作曲によるスウィートでポップなナンバー。ロッキーズは2年程の活動で解散している。
THE BEATS
・「気分はグルーピー」(1982.6.1)シングルA面
・「今夜だけビー・ウィズ・ユー」(1982.11.21)シングルA面
の2曲を収録。
THE BEATSは、
上利正明(B,Vo)
黒野芳文(G,Vo)
小林大輔(G,Vo)
浜田光弘(Ds)
というメンバーで、もとはアロワナというバンド名で活動、1981年にシングル「アイシテンダネ! c/w ハロー・リトル・ガール」をリリースするが、所属事務所の移籍に伴いバンド名をTHE BEATSと変更している。「気分はグルーピー」はTHE BEATSとしての1枚目のシングルA面曲でバンドのオリジナル。コーラス・ワークが素晴らしい。「今夜だけビー・ウィズ・ユー」は2枚目のシングルA面曲で、ラズベリーズの日本語カヴァー(日本語詞は岩里祐穂)。アレンジャーは伊藤銀次。爽やかでゴキゲンなパワーポップだ。リリースしたのはアロワナ時代を含めシングル3枚だが、活動は長く1980年代末まで続けていたようだ。なお、今回このCDにアロワナのシングル2曲を収録予定だったという事だが権利関係で見送られている。非常に残念だ。
随分長くなったが、以上のバンドの他に、
ちわきまゆみ
・「ROCK'N'ROLL LOVE LETTER」(1986.7.23)シングルB面曲でティム・ムーアのカヴァー曲(BCRのカヴァーでも有名)
ルージュ
・「ラブ・イン・フローラ」(1975.10.5)アルバム『ザ・ベスト・オブ・ルージュ』収録曲
が収録されている。そしてボーナストラックとして、
ザ・レッド・ブラッズ
・「ノー・マター・ホワット」(1971.3.5)アルバム『キャッシュ・ボックス・トップ12』収録曲でバッド・フィンガーのカヴァー
も収録されている。
個人的にはリンドンのあと2曲は収録して欲しかったなぁ。THE BEATSのあと2曲やロッキーズの他音源も気になる。32ページのブックレットは写真も多く読み応えあるが、歌詞は掲載されていない。
解説にも書かれているが、収録されたバンドはロックンロールを志向しながらも当時の事務所などの意向により、売れ線狙い、アイドル化、外部のプロミュージシャンや外部の作家の起用など本来の持ち味を出せず、不遇なまま活動を続けた場合が多い。それゆえ音楽(ロック)ファンから注目も評価もされずに消えてしまったわけで、当時のライヴを見ていたファンだけがその真価を知っているのかもしれない。ほぼ40年後の今、ジャネットやリンドン、バッド・ボーイズ、THE BEATS、ロッキーズをロックンロールの側からパワーポップとして照らし出し、 再評価したこのコンピレーションは確かに失われていた日本のロックのピースを埋める役割を果たしている。