My Wandering MUSIC History Vol.47 THE ROOSTERS『INSANE』

1981年11月25日、日本コロムビアよりリリースのアルバム。

ルースターズのライヴを初めて見たのは1982年5月23日の明治公園反核集会だった。随分前の事なので記憶は僅かしかないが…。調べてみるとこの日は日曜日。誰と行ったのかは思い出せない。天気は良く集会日和だった気がする。当時は今とは違った政治的緊張感があって、限定的な核攻撃・報復を想定した戦術核兵器の配備問題というのがヨーロッパを中心にしてあり、限定核戦争が起こる可能性も大きいと感じた人々の反核運動は大きな盛り上がりを見せていた。

音楽的な面からみるとクラッシュやジャムやイアン・デューリーらが楽曲を提供したオムニバス・アルバム『Life In The European Theatre』のリリースや、様々なミュージシャンのCNDへの支持なんかがあったが、その反核運動の盛り上がりは日本へも波及。…そんなノー!ニュークスな志を持って私が明治公園へ行ったかどうかは今となっては不明だ。その集会ではフリーコンサートがありルースターズがタダで見られる、という情報は得ていたんだろう。

それでライヴの内容だが、どんな曲を演奏したか覚えてないのだけれど記憶に残っているのは、コンサートは野外でステージがかなり高く作られていたこと、大江慎也の着ていたジャケットの鮮烈な黄色、 “軍事費を減らして電気代をを安くして”(ガス代だったかも)という大江のMC、それに強烈な印象を残したのが「In Deep Grief」の演奏だった。青空にダークなサウンドを響かせ、大江慎也は分厚く重そうな本を抱え呟いていた。

“Out of the depths I cry to you, O Lord, Lord hear my voice”

既にアルバム『インセイン』は聴いていたと思う。音を聴いただけでは気が付かなかったが、 大江のその姿を見た時、朗読しているのは、たぶん聖書の一節じゃないかな、と思った。後々この曲が収められたアルバム『インセイン』の歌詞カードを見て調べてみると旧約聖書・詩篇の一節だったことがわかる。

アルバムのタイトルは『INSANE』。インセインなんて単語はこのアルバムで初めて知ったんじゃないかな。あとになってジム・モリソンやルー・リードなんかの歌詞やタイトルで見かけるんだけど。正気ではいられない程の内容を持ったアルバム、ってことなんだろうか、それとも…。

アルバムの1曲目「Let's Rock(Dan Dan)」は、その辺のバンドのアルバム1枚分に相当する名曲だな、と思っていた。循環コードで作られているが様々な意匠を凝らしてある。ギターのストロークで始まり、ダンダンダン…というコーラスで増してゆくスピード感、シンプルで耳に残る単語や対比する単語を使用したポップな歌詞、ドラムのフランジャー・エフェクトしたハイハットのうねりを持ったビート、ブレイク部分のスリリングでパーカッシブなティンパレスのダビング、ロックンロールなギターソロ、ギターソロ後、コーラスあけの“Let's go out on a weekend~”の部分は躍動的で曲を立体的にしている。初めの頃のライヴでは“I don't wanna go crazy”を“I don't wanna go insane”と歌っていた時もあった。退屈をぶっ飛ばし、ロックするためのテーマソング。

「We Wanna Get Everything」はウルトラ・ハイ・スピードのロックンロール。これもダビングされたパーカッションで、ただのパンク・ビートにならない所がさすが。ライドシンバルの響きが曲を煌びやかにしている。井上富雄が作詞・作曲した「Baby Sitter」は、「恋をしようよ」+「Fade Away」な印象のある曲。 ベースプレイは冴えわたっている。ポップだがボトムの効いたリズムが気持ちいい。「All Night Long」はファースト・アルバム録音時のアウトテイク・ヴァージョンが2003年にリリースされた『The Basement Tapes~Sunny Day Unreleased Studio Session』で聴くことが出来るが、バリバリとしたギターサウンドがオールナイトでぶち壊す歌を更に凶暴にしている。徐々にスピードアップする後半が今聴いても刺激的だ。この曲も井上のベースだけ聴いていてもいいくらいのベースライン。

前曲の高揚から、やや落ち着いた始まりを聴かせる「Flash Back」はインストゥルメンタル。だが50秒ほどたったところから奇怪なサウンドも織り交ぜながらスピードアップ。ここでもパーカッシブなアレンジで、和太鼓も使われているようだ。2分20秒ほど経過したところでテンポダウンするが再びテンポアップ。そのタイトルとともにドラッギーというか精神的作用な印象が強い曲。後の1984に通じるサウンド。またはTHE WHOのファーストに収録されている「The Ox」にも通じているか。ここまでがアナログA面だが、この曲「Flash Back」がルースターズの分岐点またはクロスロードとも思える。

アナログB面の始まりは、ギター・ポップと言ってもいいようなアコースティックなギター、井上が弾いたポップなキーボード・フレーズのイントロで始まる「Case of Insanity」。やや変わったコード進行で違和感を持ちながら、歪んだギターのストロークやフィードバックがさらに異化作用をもたらす。大江の歌は穏やかで離れてゆく心の状態を歌う。リリース当時、それまでのルースターズからガラリと変わった曲調だったが、この穏やかで不安定なギター・ポップは私のまわりでも人気があった。「Case of Insaniy」は、もともと「カヌー・カヌー」という曲から発展しているが、カヌーをパドリングしているような不安定な精神状態を歌にしていたのだろうか。

大江は18歳の時に父親を事故で亡くし、その時の心象を詩として書き留めたという。その詩は英訳されて(作詞はM.アレクサンダーと大江)曲を付けたのが「In Deep Grief」で、この曲は当時のルースターズ・ロックンロール好きからは不評だった、と大江自身も言っている。確かにディレイを効かせたギターとニューウェイヴ風のベースライン、単調に進むリズムで9分超える曲は私のまわりのルースターズ・ファンからも戸惑いがあった。花田裕之でさえ“あっ、こっちに行くのか”と驚いたというから無理もないが。個人的は使われている単語の響きが面白いなという印象をもったし、当時話題だったPILやJoy Divisonなどのサウンドに呼応した表現の変化が新鮮だった。
先に詩編からの引用と書いたのは歌詞の、
 “Out of the depths I cry to you O Lord
 Lord hear my voice
 O let your ears be attentive to the voice of my pleading
 If you O Lord should mark our guilt
 Lord who would survive
 But with you is found forgiveness for this we revere you”
の部分で、深き淵から主を求める言葉ではじまる、詩篇130篇からの引用。大江の父を失った悲しみの深さが窺い知れるが、歌詞の内容からは死というものをどこか冷静に観察する視線もあったように思える。

アルバムのラストには「Flash Back」の穏やかなパートが再び流れ、個人的には“夏の終わりの空のような”印象を残してアルバムは幕を閉じる。レコード・デビューから約1年、ここまでアルバム3枚をリリースし急激に成長・変化を遂げてきたが、ルースターズにとってはここからが更なる波瀾の時代の幕開けでもあった。

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