My Wandering MUSIC History Vol.48 浜田省吾『ON THE ROAD』
浜田省吾のアルバムとしては、このライヴ・アルバムを初めて聴いたんじゃないかな。確か貸しレコード屋で借りた気がする。2枚組でそのうちの1枚は3曲入り12インチ・シングルって扱いだった。1981年12月26日、27日、28日の広島郵便貯金ホールと浜省としては初の1982年1月12日の日本武道館でのライヴから収録。ライヴの演奏はFuseと名付けられたバンドによるもの。
サウンドとしてはアメリカンテイストでハードなロックンロールがベースだが、私が80年代前半に入れ込んでいたパンクとはまた別のストリート感を持った歌詞や、パンクやニューウェイヴでは取り上げられない “愛の追求” が魅力だった。私のまわりでも浜省好きは多かったなぁ。
ジャクソン・ブラウンのライヴ・アルバム『Running On Empty(邦題:孤独なランナー)』をカラフルに模したジャケットもよかった。今持ってるCDは1枚にまとめられ、アナログ盤2枚目のA面に収録されていた「路地裏の少年」がCD化の際に5曲めに、B面に収録されていた「Midnight Blue Train」が11曲目、「On The Road」(スタジオ録音)が12曲目に収録されている。
ジャクソン・ブラウンのライヴ・アルバム『Running On Empty(邦題:孤独なランナー)』をカラフルに模したジャケットもよかった。今持ってるCDは1枚にまとめられ、アナログ盤2枚目のA面に収録されていた「路地裏の少年」がCD化の際に5曲めに、B面に収録されていた「Midnight Blue Train」が11曲目、「On The Road」(スタジオ録音)が12曲目に収録されている。
アルバムの始まりが1976年リリースのデビュー・シングルB面曲でミディアム・テンポの「壁にむかって」からというのも渋い。この曲のライヴ・ヴァージョンではスタジオ・ヴァージョンにあった“恋して愛され決めた彼女とひとつ屋根の下で暮らしてゆく~” で始まる2番の歌詞が歌われていない。ちょっと生活感があり過ぎたかな。以下収録順ではないが簡単に紹介。
1969年の大学闘争を振り返ったフレーズが出てくる「明日なき世代」、ロックンロールの初期衝動を歌った「終わりなき疾走」、都市の底辺を映しだした「東京」の3曲は、スピーディでハードな演奏が聴ける。特に「東京」は爆発寸前のギリギリの感情を表現したスリリングで緊張感がある優れた曲だと思う。スプリングスティーンの「Tenth Avenue Freeze Out」のアレンジをスピード・アップしたような「土曜の夜と日曜の朝」は工員を主人公にした曲。アラン・シリトーの小説に同タイトルあり。読んだなぁ、シリトーの小説。
浜省といえばバラードというイメージを持つ人もいるかもしれないが、愛という形のないものを歌という形にして追求し続けてきたのが浜省とも言える。さまざまな愛の形のひとつとして“結ばれない愛”を歌ったのが「陽のあたる場所」。モンゴメリー・クリフト、エリザベス・テイラー、シェリー・ウィンタースが出演したジョージ・スティーヴンス監督の同名映画がある。
高校を牢獄に見立て、退屈と見えない明日と甘えを歌った「独立記念日」。続いてむしろこの曲のほうが独立記念日とも思える家出するティーンエイジャーを描いた「反抗期」の並びは面白い。7枚目のアルバムのタイトル・トラックでハードなリフで始まる「愛の世代の前に」は浜省が名付けた “核兵器の存在する世界=現代” の別名でもある。今もその名に変わりがなく、歌われているこの世界で続くゲームと憎しみの連鎖もまた変わることはない。悲しいことだが…。
デビュー・シングルのA面曲だった「路地裏の少年」。表通りじゃなく路地裏、バックストリート。16才で家出、18才でギターを手にするが味わう挫折感、22才で行き詰まり、デッド・エンド・ストリート。23才の誕生日の前日に書いた歌詞だというが、浜田省吾が22才の頃に感じていた自身の閉塞感が色濃く出た物語仕立ての曲。 “思い出の歌をみんなに贈りたいと思います”と話してから始まるイントロ、瑞々しいギターのストローク、ひと際大きな歓声があがるフォークロック。歌詞の中には浜省のアイドルだったというディランの“風に吹かれて”も登場する。後にアルバム『J.Boy』には3番の歌詞が追加されたヴァージョンが発表されている。
ライヴ・テイクとしてのラストは「Midnight Blue Train」で、アーティストとしての苦悩がおり込まれたスローな曲。アーティスティックな活動といえども繰り返し、繰り返しの日々から逃れられない。それでも“走り続けることだけが生きることだ”と答えてくれと、問いかける。
ライヴ・テイクが終わって歓声が消える頃、響くピアノとシンセに導かれて“この道の彼方、約束されたはずの場所があると信じて行きたい” と歌われる「On The Road」が始まる。このアルバムで用意された唯一のスタジオ録音の曲。この曲は浜田省吾の楽曲の中でも特に好きな曲。“わずかひとさじ”の優しさに救われる孤独な日々、寂しさと愛を取り違えてしまう感情、誰もが抱えひとり歌うブルーズ、だがもう一度路上に立って道の彼方を目指すことを促した、ドライヴ感はあるが繊細な曲だ。この曲は「On The Road c/w ラストダンス」としてライヴ・アルバムと同日にシングル・リリースされた (B面はライヴ・アルバム未収録の日本武道館でのライヴ・テイク)。
ほんとうに久しぶりにこのアルバムを聴いた。ハード/スピーディーなナンバー、ミディアムなロックンロールが大半でスローなのは2曲。そのうちラヴソングのバラードは「陽のあたる場所」のみで、この頃完成の域に達した浜田省吾型のロックンロールの魅力が詰まった、60分余りを一気に聴かせる勢いのあるアルバムだ。
よくパッケージされた作品だが、リマスタリング、 当時のセットリストをもとにお蔵入りになったライヴ・テイクを追加収録した拡大版のリリースなんていうのも面白いのでは。