My Wandering MUSIC History Vol.49 佐野元春『HEART BEAT』
佐野元春のアルバムを初めて聴いたのは『ハートビート』か『サムディ』(1982年)か、どっちだったか思い出せない…。けど、まずはセカンド・アルバムの『ハートビート』。ジャケットが好き。収録曲の「Night Life」を映像化したようなモノクロームのフォト。 “決まったぜ”という裏ジャケもいい。勢いを感じるなぁ。アルバム・タイトルはバディ・ホリーの楽曲からとられたいう。
佐野元春のサウンドは私が当時聴いていたパンク/ニューウェイヴとはまた違った新しさを感じさせるものだった。言葉をコラージュするように描く都市の風景、登場人物たちのユーモラスな会話や時にシリアスなモノローグ、その言葉をビートの効いたサウンドに出来るだけ詰め込んだポップチューン、イメージをたくさん盛り込んだリリカルなバラッド。クールでエネルギッシュでソウルフル。そして何より各曲ギターソロというものがない。間奏にギターを使ってない。これは個人的に画期的だった(何しろハードロックを聴いてきたからね…)。
オープニングの「ガラスのジェネレーション」は、Get Happy!と歌うカラフルでポップな曲だが、ラストに“つまらない大人にはなりたくない”というフレーズがあるため、佐野が年齢を重ねるにつれて歌う事を逡巡させることになる曲。個人的には佐野元春版マイ・ジェネレーションと思うのだが。THE WHOの「My Generation」には“I hope I die before I get old”という歌詞があるが、佐野はTHE WHOほど刹那的なフレーズじゃなく“街に出て/恋をしようぜ”と訴えるポジティヴな内容で、少年の心(=ピュアネス)を持ち続けたい、という気分を歌っていると思う。まぁこの時の佐野は気分という生易しいものじゃなく決意表明してしまっているんだが…。そして自分達とリスナーであるティーン達(ガラスの世代)の新しさを高らかに宣言し、自分達よりも少し年上の革命的ジェネレーション(1969年には佐野はまだ13歳だ)との決別を告げるセンセーショナルなポップ・ソングでもある。
続く「Night Life」。金曜の夜、精一杯お洒落した若きカップルのナイトライフ。グルーヴィーなアレンジが気持ちいいし、 “時計を気にしながら早く服を付けて髪も整えたらタクシーで11時までにWe gonna back home” ってところの猥雑さがいい。ぐっと大人っぽい「バルセロナの夜」は、些細な諍いがあっても深く結ばれている二人を描いたボサノヴァ・タッチの楽曲。当初はあんまりピンとこなかったけど、後々凄く好きになった曲。編曲は大村雅朗。それでいいんだぜと歌う2分半のスピーディーでファニーでナンセンスなポップ・ソング「It's Alright」に続いてピアノと流麗なオーケストレーションに包まれたハートブレイク・ソング「彼女」。
このアルバムの中でナンバーワンのお気に入り「悲しきRADIO」は疾走感あふれるロックチューン。ライヴだとこの曲でコール&レスポンスを入れたり、バンドの演奏をブレイクして佐野のパフォーマンス的なものを入れたりしてかなり長尺になるんだけど、実は私はこのままストレートに4分間カッ飛んで聴きたいんだよね、ライヴでも。「Good Vibration」はアレンジが80'sなピュアなラヴ・ソング。AOR的な印象の編曲は大村雅朗。「君をさがしている(朝が来るまで)」は、なかなかタフな印象を持った曲。若者達のナイトライフをハードに描いたような強烈にヴィジュアルを喚起させる歌詞とメロディとアレンジだ。フォーク・ロック×パワーポップって感じにサックスが絡む。共同アレンジャーの伊藤銀次はクリトーンズあたりも参考にしたらしい。
佐野の弾くピアノの「Interlude」を挟んで、ラストは8分に及ぶ「Heart Beat(小さなカサノバと街のナイチンゲールのバラッド)」。佐野がブルー・アイド・ソウル的なイメージで作ったというリリカルで繊細な演奏とドリーミーなアレンジ、夏の終りの倦怠と鼓動を感じるプリミティヴな夜、迎える蒼白い朝の空気のようなイノセントな気持ちを込めて描いた叙事詩ともいうべき作品。
レコード・デビューから約10ヶ月。佐野元春がレコーディング・アーティストとして確実に成長し、モダンな質感が感じ取れる充実した内容のロックンロールアルバムだ。