My Wandering MUSIC History Vol.51 TELEVISION『MARQUEE MOON』
テレヴィジョンのファースト・アルバム。
1981年~1982年頃はアメリカ(ニューヨーク)のパンクってほとんど聴いてなかったなぁ。ブロンディ(パンクかな…)、ハートブレイカーズ、ジョニー・サンダースくらいか。リチャード・ヘル&ザ・ヴォイドイズのファーストは当時入手難だったんじゃないか。だから聴いたのはもう少し後だった。ラモーンズももっと後なんだよね、良さがわかるのは。だからテレヴィジョンの『マーキー・ムーン』はイギリスのパンクバンド一辺倒だった私へ、ニューヨーク・パンクの強力な一撃だった。神経質そうな痩せたトム・ヴァ―レインの眼差しが目を引くロバート・メイプルソープによる写真を使用したジャケット。裏ジャケットには"単純で不気味な感じのらせん状のイメージを使いたい”というトムの依頼でビリー・ロボのアートが使われている(確かにこの裏ジャケのデザインは奇妙に感じた)。プロデュースはトムとアンディ・ジョンズ(グリン・ジョンズの兄弟)で、アンディはプロデュースというよりエンジニアとしての腕を見込まれたようだ。
後々タモリ倶楽部の“空耳アワー”で紹介された(言われるまでそう聴こえなかったけどね)「See No Evil」。ぐるぐる回るようなリフが印象的。線が細いけどエモーショナルなトムのヴォーカルも一発で気に入った。ギターのパッキング・フレーズが好きな「Venus」。トムのギター・ソロもいい。“ミロのヴィーナスの腕に落ちていった”というありえないシチュエーションの歌詞もユニーク。ギターの半音階的なフレーズがビザールでガレージ・サイケデリックな「Friction」。後半のギターソロ前の“F・R・I・C・TION”ってとこが最高にカッコいい。タイトル・トラック「Marquee Moon」。絶妙のコンビネーションで曲は進む。手数の多いドラム、官能的ともいえる2本のギターの絡みとクールなベースライン、ドラマティックな展開。10分余りの長さをまるで感じさせない。そのサウンドはスリルの連続でありながら、聴く者の神経を甘美に弛緩させる作用もあるミラクルなナンバー。アナログでは9分半頃の一旦静かになり再び歌が始まるところでフェイドアウトするが、CD化の際には完奏ヴァージョンでの収録となっている。
アナログ盤ではB面の1曲目だった叙情的な「Elevation」。この曲もバッキング・ギターが好きだが、リチャード・ロイドのギター・ソロがエモーショナルで良いんだ。このアルバムで一番好きなソロかも。闇から抜け出す光を求めるクラシカルなバラード「Guiding Light」。「Prove It」はファニーなポップとも言える曲だが、トムの痙攣ギター・ソロの転調するところが気持ちいい。ビリー・フィッカのドラミングも繊細なプレイ。沈鬱なラストの「Torn Curtain」。震えるようなトムのヴォーカルは涙と年月の物語を歌う。曲の中盤にあるギター・ソロの展開も不気味。後半、か細く悲鳴を上げ続けるギター、もの悲しいトムの弾くピアノの響き、荘厳に鳴り渡るサウンドに包まれ“Tears…Years”と繰り返すコーラス…そしてフェイド・アウト。この痛ましい音色に満ちたラストはなんか救われないような、やりきれないような印象を当時から持ってたけど、それが狙いなのだろうか…。
1970年代末から1980年代のニューウェイヴ世代のギター・バンド(とギター弾き)に絶大な影響を世界的に与えたアルバムと言っていいだろう。ヴォーカルとギターのトム・ヴァ―レインだけでなくバンドとしてのマジカルな化学反応をパックした奇跡的なアルバム。このアルバムもボーナス・トラックが無い盤も持っていたい、パッケージとして優れたものだ。