My Wandering MUSIC History Vol.52 TOM ROBINSON BAND『POWER IN THE DARKNESS』
私のまわりではストラングラーズ、クラッシュに次いで人気のあったトム・ロビンソン・バンドのファースト・アルバム。鋭利なサウンドというよりはメロディックでパワーポップ的な楽曲に社会的なメッセージの歌詞が特徴だった。トム・ロビンソンのベースを弾きながら歌うスタイルもカッコよかったなぁ。ジャケットの握り拳もトレードマークで日本盤アナログには、 この握り拳を“POWER IN THE DARKNESS”の文字が囲んだ図柄のジャケット・サイズのステンシル・シートが付属していた。日本盤はデビュー・シングルの「2-4-6-8 Motorway」をアルバム冒頭1曲目に追加した11曲入り(UK盤は10曲)。このシングル曲のみヴィック・メイルのプロデュース、 他アルバム曲はプロデュースにクリス・トーマス、エンジニアにはビル・プライスが起用されている。
トム・ロビンソンは既に子持ちらしいが、このデビューの頃は自身がゲイということを公言し性的マイノリティだけじゃなく、人種などのすべてのマイノリティに対する差別への怒りを表明し、マイノリティの権利を主張していた。それはファンキーでパワフルなアルバム・タイトル・トラック「Power In The Darkness」に顕著だし、自分自身の為に立ち上がれというメッセージを持った「Ain't Gonna Take It」や「Better Decide Which Side You're On」でも訴えている。更にマーク・アンバーのキーボードが効いている性急なビートの「Long Hot Summer」では自分達の音楽で闘いを挑むことを宣言した。
その権利主張は“もうがまんできない!”という当時の状況があったわけで、騒動が溢れかえるストリートを描いたパンクロック「Up Against The Wall」や、住んでいる街で生き残りをかけた争いが起きている危険な状況を描いたシャッフル・ビートの「You Gotta Survive」、夢さえもが絶望的な、ダークなサウンドの都会的ブルース「Too Good To Be True」、権力の傍聴について歌った「Man You Never Saw」といった曲群で当時の状況を表現している。
1978年に1979年冬の仮想ストーリーを作り、このままいったらもっと悪くなっちまう、という内容をドラマチックなサウンドの載せた「The Winter '79」はタイトル・トラックとともにこのアルバムを代表する曲だ。ブルース・スプリングスティーンが歌われている「Grey Cortina」は車とスピードのマッチョな感じを揶揄しているのかなぁ、とも思ったが、どうやらフォード・コルティナが欲しい!というロックンロールナンバーだったようだ。
当時アメリカ盤でも聴いたがアメリカ・リリース盤にはボーナス・ディスク(12インチLP)が付属していて、イギリスでファースト・アルバムに先駆けてリリースされていたライブEP『Rising Free』収録曲の「Don't Take No For An Answer」、「(Sing If You're) Glad To Be Gay」、「Martin」、「Right On Sister」と、デビュー・シングルのAB面「2-4-6-8 Motorway」、「I Shall Be Released」(ディランのカヴァー)、セカンド・シングルのB面曲「I'm Alright Jack」の計7曲が収録されていた。 特に「(Sing If You're) Glad To Be Gay」はトム・ロビンソンを代表する最重要必聴曲、ユーモラスな「Martin」も大好きだった。