My Wandering MUSIC History Vol.64 THE CLASH『COMBAT ROCK』
1982年1月クラッシュ来日。私は行かなかったけど、行った友人にパンフ見せてもらったなぁ。 NHK・FMで来日音源が放送されたし、NHKテレビの「ヤング・ミュージック・ショー」で来日公演(1982年2月1日中野サンプラザ)が放映された。“団結”と白抜き文字の赤い鉢巻を巻いたジョー・ストラマーの姿が強い印象を残した。当時はビデオデッキなんか無いから放送当日に見たんだろうな。今はYouTubeで見られるけど。1月~2月にかけての日本を含む東南アジア~オーストラリアツアーの後、1982年5月にリリースされたクラッシュ通算5枚目のアルバム。当初このアルバムには『Rat Patrol From Fort Bragg』という仮タイトルがついていたが、1982年4月に勃発したフォークランド紛争に抗議する意味でジョーにより『コンバット・ロック』に変更されたという。
1曲目は「Know Your Rights」。邦題は“権利主張”。ほぼワンコードで突っ走るロカビリーとウェスタン風味を付け加えたサウンドで若者に三大権利を叩きこむ。この曲は1982年4月23日に「Know Your Rights c/w First Night Back In London」として先行シングルとしてリリースされている(B面はアルバム未収録)。「Know Your Rights」は先の東南アジア~オーストラリアツアーでもライヴ演奏されていた。「Car Jamming」はアフリカンというか密林なリズムとエフェクターを効かせたギターが絡む奇妙な印象を持った曲。続いてミック・ジョーンズの歌う「Should I Stay or Should I Go」。ミックとエレン・フォーリーの関係を歌った曲とも、ミックとバンドとの関係を歌った曲とも言われた、緩急のあるロックンロール・ミュージック。アルバムから1982年9月17日に「Should I Stay or Should I Go c/w Straight Hell(edit)」としてシングルカットされている(英17位・米45位)。
トッパー・ヒードン作「Rock The Casbah」。誰もいないスタジオで、印象的なピアノ・リフにベース、ドラムのトラックをトッパーはひとり作り上げていた。やってきた他のメンバーはそのトラックを聴き、歌詞を付け足し、長さを倍にして、ロックやポップ・ミュージックを取り締まる宗教のリーダーを揶揄する内容をもつ、しかもポップでダンサブルな曲として仕上げた。この曲もアルバムから6月11日に「Rock The Casbah c/w Long Time Jerk」としてシングルカットされ、イギリスでは30位だったが、アメリカでは8位となる大ヒットとなった(B面はアルバム未収録)。このシングルの「Rock The Casbah」はボブ・クリアマウンテンをエンジニアにミック・ジョーンズによってリミックスされたものだ。
ポール・シムノンが歌う「Red Angel Dragnet」はニューヨーク滞在中に起きたガーディアン・エンジェル射殺事件にインスパイアされ、ポールにより作られている。途中コズモ・ヴァイナルによる映画『タクシードライバー』のセリフが挿入されている。アナログA面のラストは「Straight To Hell」。後々までジョーが歌い続けていたクラッシュのナンバーで、聴くほどに染み入ってくる、強い耐久力を持った優れた曲だ。1987年にジョーが出演したアレックス・コックス監督の映画タイトルにもなった。
ファンク・チューンの「Overpowered By Funk」はキレのあるギターが耳に残る。カッ飛んだ印象のキーボードはPoly Mandell。ジョーとミックの掛け合いにより壮絶な内容が歌われる「Atom Tan」。「Sean Flynn」は1970年カンボジア国境付近で消息を絶ったジャーナリストのシーン(ショーン)・フリンに材を取ったナンバーで、後のメスカレロスにも通じるムードを持った曲だ。ゲイリー・バーナクルのサックスが効果的。
「Ghetto Defendant」。邦題は“ゲットーの被告人”。アレン・ギーンズバーグが朗読でゲスト参加したレゲエ・ナンバー。「Inoculated City」はミックの歌うポップなサウンドだが、歌われているのは職務に忠実なために不可避となる悲劇について。ミックのヴォーカルが3トラック録音されていて、ヘッドフォンで聴くと左・中央・右に振り分けられているのがわかる。アルバムのラストは「Death Is A Star」。タイモン・ドッグがピアノを弾いているメランコリックな曲。まるでベトナムから帰郷した兵士の疲弊した日々を綴ったかのようなこのアルバムのラストに相応しい曲調だが 、内容は刺激的な映像を求める心理についての歌とか。
もはやここにはファーストアルバムにあったストリートから生まれたガレージサウンドはもちろん、『動乱』のメタリックともいえるギターサウンドも、『ロンドン・コーリング』のカラフルと言ってもいいバラエティさも、『サンディニスタ!』の解放感を伴ったあけすけの混沌もない。
「Should I Stay or Should I Go」、「Rock The Casbah」のシングルヒットがあるが、内省的というか都市に生きる者の傷んだ精神に目を向けているような内容で、それはクラッシュがパンク・バンドとして辿ってきた1976年から1982年までの約6年間、理想と現実の間で闘い続けてきた疲弊した姿でもあるように思う。しかしサウンド的には名士グリン・ジョンズのミックスによりまとめ上げられ、イギリスで7位、アメリカでは2位を記録するヒットアルバムとなった。
が、ここからトッパー、そしてミックの解雇と更にバンドは疲弊してゆくことになる…。
参考文献:トニー・フレッチャー著・上西園誠監訳「全曲解説シリーズ ザ・クラッシュ」、「THE DIG SPECAIL EDITION THE CLASH」、 クリス・セールウィクズ著・太田黒奉之訳『リデンプション・ソング(ジョー・ストラマーの生涯)』