『ユリイカ 2016年2月臨時増刊号 総特集 江口寿史』
雑誌『ユリイカ』で江口寿史をまるまる1冊取り上げた増刊号が発売された。
江口漫画がどんな文章で解析されているか興味あって購入したが、「ちばてつや×江口寿史の対談」、「集英社歴代担当編集者の座談会」、「江口寿史・音楽と漫画を語る・インタビュー」は川崎や明大で開催されていた展覧会関連で行われたイベントを掲載したもの。ちばてつやとの対談は江口のルーツと漫画に対する姿勢を、編集者座談会は漫画雑誌編集の裏側を、江口へのインタビューはエンケン、拓郎、DEVO、XTC、ムーンライダーズ、ユーミン、佐野元春、アイドルまで名前が挙がる音楽遍歴を知ることが出来る。コマ割りから視線の動き、セリフの読ませ方などコミュニケーション論でアカデミックに分析したものから、同業者の愛あるリスペクト文、リスペクト・イラスト、山上たつひことの往復FAX書簡、お約束の江口漫画年表など、ボリュームたっぷりの内容。
多くの評者が江口の手法について、江口自身の興味があるものを漫画を通して紹介するDJ的、自身の好きなものを取り込むサンプリング的、またそれらを自身の表現として再構成するリミックス的な手法の先駆けと位置付ける。
これらの評価はなるほどと思わせるものだが、日本の漫画文化が手塚治虫から綿々と続いている先人たちの真似(リスペクトというんじゃなくコピー表現、江口の場合その端緒はちばてつや)をすることによって磨かれていった表現でもあることが言えると思う。2015年にNHK Eテレで放送された『浦沢直樹の満勉』を見ていても思ったが、自分が先人達が描いた漫画からの影響を隠そうとしない、それを指摘されても否定しない、真似から始めた事をなんの衒いもなく言い切ることが潔かった。真似て真似て描き続け、消化し、自らの骨肉化し、やがて作者独自の表現へ、さらに洗練されたオリジナルな表現へ。江口に限らず多くの優れた漫画家が辿る道筋じゃないのかな。このあたりパクリ論争が喧しい音楽・楽曲関係とは読者・受け手の意識(その文化に対する歴史観・ルーツ意識かな)が違うんだろう。
個人的にはバンド・デシネ(フランス語圏の漫画)からの影響を考察した原正人「江口寿史とバンド・デシネ」も面白かった。
それにしてもパイレーツの “人はわしを畑のパンクロッカーと呼ぶだよ”♪あ けんけんのぉ♪さていすふぁくしおん♪ あけちゃ♪あけちゃ♪あけちゃ♪・・・は強烈だったなぁ…。